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規格戦争の終わりの始まり?

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近ごろ最も話題となった規格戦争といえば、言うまでもなく「HD-DVD vs Blu-Ray」なわけですが、これに関連して少し考えさせられるコメントがありました:

Interview with HD DVD player owner Steven Johnson (kottke.org)

以前にご紹介した本『感染地図』の著者である、Steven Johnson 氏へのインタビュー。自ら Twitter で告白しているように、たった1ヶ月前にHD-DVDプレーヤーを買ったばかりとのことで、今回の東芝撤退に関してコメントしています。

気になったのは以下の部分:

There are more new standards proposed, and new innovations, and thus more obsolescence, but more and more of the new standards are coming in the form of software not hardware, so the transitions aren't nearly as painful as my HD-DVD misadventure. My AppleTV box that I bought last year wouldn't let me watch HD movies or browse Flickr photos, but after twenty minutes of a software update, I can now enjoy both with ease. I think that experience is probably going to be more commonplace than my getting burned buying into the wrong silver platter.

これからますます多くの規格が提案され、新しいイノベーションも生まれるだろうから、ある規格が陳腐化するということがもっと起きるだろう。しかし新しい規格はハードではなく、ソフトの姿を取るようになってきている。従ってある規格から別の規格に乗り換えるということは、私がHD-DVDで被った災難ほど痛ましいものではなくなるはずだ。私が去年買った Apple TV は高解像度の映画を再生したり、Flickr 上の写真を表示したりといったことはできなかったが、20分間のソフトウェア・アップデートを行っただけで、どちらも可能になった。この経験は、「間違った規格を選んでしまって苦労する」というのよりもずっと一般的なものになると思う。

この「ある機能を提供するものが、ハードからソフトになる」という話は、同じく以前にご紹介した本"The Big Switch"の中でも触れられています。一例として挙げられているのは「留守番電話」という機能で、これはご存知の通りハードウェア(電話機に備え付ける機械)として出発しましたが、現在の携帯電話に至ってはソフトウェアとして実現されているわけですね。

このようにソフトとして留守番電話が実現されていれば、仮に音声を記録する規格が陳腐化しても、ユーザーは何の痛手を負うこともありません(サービス提供者の側では当然何らかのコンバージョン作業が発生しますが)。ベンダーにとってみても、機能のソフト化が実現されれば「ある製品から手を引いた後も補修用部品を作り続ける」という事態を避けることが可能になります。つまり両者にとってメリットがあるわけで、Johnson さんが「将来的にはこんな経験は少なくなるはず……」と期待しているのも頷けます。

ちなみに Johnson さんは、「Apple TV があるから Blu-Ray 買わなくてもしのげるかなぁ」ともコメントされています。もちろん「HD映像のダウンロード販売なんて当分一般化しない」「記録用の需要もあるだろう」なんて議論もありますが、「同じような痛い思いをしたくないから、なるべくハードは買い控えたい」という人がHD-DVD購入者の中に出てくるかもしれません。そうした態度が端でこの戦争を見ていた人々にも波及していき、思ったように Blu-Ray が普及せず、「ハードの規格戦争は労多くして功少なし」という態度が企業にも定着するかも。この予想が当たって、少なくとも消費者が巻き込まれる形での争いが起きるのはこれが最後になると良いですけれどね。

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