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「新幹線ガール」のつぶし方

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徳渕真利子さんの『新幹線ガール』を読んでいます。「平均の3倍以上売り上げる凄腕新幹線パーサー(車内販売や改札を担当する仕事)」と言えば「ああ、あの人」と分かる方も多いのではないでしょうか。アルバイトから正社員となり、その年に全パーサーの中で売上No.1の座に輝いたという彼女、新聞やテレビなどあちこちで取り上げられていますよね。そんな伝説的な人物なので、さぞかし接客業に向いた性格なのだろう……と思いきや、実は最初の職場である某一流ホテルでは、出社拒否に陥って退職していたのだそうです。

いったいなぜ、某一流ホテルでは徳渕さんは活躍できなかったのでしょうか?彼女はホテル時代に感じた悩みを、このように説明しています:

最も悩んだのは、お客様によってサービスに差をつけるという、課に蔓延していた風潮です。サービスの仕方について、指示が先輩によって異なるのも信じ難いことでした。(34頁)

私がホテルを辞めた理由。それは「お客様によってサービスに差をつける」のが我慢できなかったからです。専門学校で「本当のサービス」を学んだからこそ、「現実は、こんなもんか」では納得いきませんでした。(162頁)

ホテルというサービスに思い描いていた理想と、現実とのギャップ。彼女の悩みは想像に難くありませんが、このホテルではサービス向上に積極的ではなかったのでしょうか?実はそういう訳でもないようです:

私が働いていたこのホテルにおいても、「お客様がどんなに無理と思われるようなことをおっしゃっても、私たちはNOと言ってはいけない」と教育されてきたのです。(34頁)

きちんとしたマニュアルがあっても、先輩たちがそれに沿って行動しないため私たち部下やアルバイトにも伝わらない。自分なりのアイデアを述べたのですが、受け入れてもらえませんでした。(35頁)

「最高のサービス」というお題目が唱えられ、そのための教育も行われているのに、現場では実践されない。その結果、彼女は「自分が学んできたことが実践の場で活かせない」「お客様に気持ちよく過ごしてもらうための最高のサービスができない」と疑問を抱くようになり、退職という結末になってしまったとのことです(すぐに辞めたのではなく、悩みに悩んだ上での決断だったと述べられていることも付け加えておきます)。こうして某一流ホテルは、人の3倍のパフォーマンスを発揮できる人材を取り逃がしてしまうこととなりました。

このホテルの首脳陣を、「バカな奴らだ」と笑って済ますことができるでしょうか。私たちの仕事においても、「お客様に最高のモノ/サービスを提供しよう」などといった目標が掲げられているはずです。しかし現実はどうか -- 「ホンネとタテマエは違うよ」「ノルマをこなしていれば十分」などといった態度により、そんな目標は有名無実化している例が多いと思います。スローガンやマニュアルだけを用意して、行動が徹底されていないとしたら、徳渕さんのような人物がひっそりと生まれている(そして辞めてしまっている)のではないでしょうか。

「うちにも『新幹線ガール』のような人材がいたら……」と思ったら、外を向いて人材を探すのではなく、まずは後ろを振り返って社内環境をチェックした方が良さそうです。最高のモノをつくりたい、最高のサービスを提供したいと考えている人物が、気づかないうちに見殺しになっているかもしれません。

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