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決して最先端ではない、けれど日常生活で人びとの役に立っているIT技術を探していきます。

伊野辺さん、夢もいいけど。

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政府が設置した「イノベーション25戦略会議」が、長期戦略指針となる「イノベーション25」の中間とりまとめを発表したそうです:

ロボットが掃除や風呂わかし 2025年目指し政府発表 (asahi.com)

この中で、提言の内容を寸劇風にまとめたのが「伊野辺(イノベ)家の1日」というページ。2025年に訪れる理想郷が活き活きと描かれています。あと20年もしないうちに、こんな素晴らしい社会が実現されるのですね。

……と、あと20歳若かったら素直に感動していたかもしれません。しかしなぜでしょう、伊野辺家の一日からは違和感しか感じられないのです。30年以上生きてくると、考えがひねくれてしまうのでしょうか?

イヤ、そうでもないはずです。違和感を感じた部分をちょっと抜粋してみましょう:

  • バス、電車を利用して自宅からオフィスに向かう。テレワーク制度の普及、フレックスタイム制(20年前にはこう呼ばれていた)の普及等により、通勤に伴う過密な人の移動がなくなったおかげで、バスも電車も座って乗れる。(午前8時)
  • 祖父の一郎が、電気自転車で出勤。電池技術の進歩で電気自転車の機能が進化したことと、自転車専用レーンが作られたことで、自転車通勤は大ブームになっている。(午前9時)
  • いずれにせよ、こうしたシステムのおかげで、日本の犯罪率は世界一低いらしい。正子は、時々ふと思うことがある、「自分が子供の頃も、外で暗くなるまで遊んでいても安全だった。正之が子供の頃は、心配の種が尽きなかった。今また、こんなに安全に安心して暮らせる日本にいて、自分は幸せだ」。(午後2時)

だめだ、このままだと全文を書き出してしまいそうです。上記の部分だけでなく、「イノベーション25」全体から感じられるもの、それは「科学技術や画期的なアイデア(≒イノベーション)が問題を解決してくれる」という態度です。果たしてそれで十分なのでしょうか?

イノベーションから価値が生まれるのは、それが最適な環境に置かれた時だけです。例えばテレワーク、フレックスタイムは何年も前から存在する発想ですが、「勤に伴う過密な人の移動」が解消されないのは社会環境にも原因があるためです。インドがIT大国として台頭しつつあるのも、単に技術を輸入しただけでなく、それを最大限活用するような社会システムを創り上げた結果でしょう。イノベーションさえあれば、何でも解決する -- そんな態度は、ドラえもんに未来の道具を期待するのび太くんと大差ありません(そして大抵、のび太くんは道具を誤って使ってしまい、予想外のトラブルに見舞われます)。

果たして「イノベーション25」は、単に技術への期待を描くだけでなく、新しい日本社会のシステムについても提言してくれるでしょうか。

  • 一郎が地元の高校で「ものづくり」の授業を行っている。(午前10時)

……相変わらず「ものづくり」に代わるビジョンを提案できていないようでは、最終成果物として出てくるのはSF小説程度だと考えていた方が良さそうです。

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