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バズワードの恐さ

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相変わらず「WEB2.0」という言葉が流行しています。最近はWEBに限らず、様々なもので「~2.0」という言葉を作ることも流行っているのはご存知の通り(僕もよく使ってしまいます)。しかし、自分で便乗しておきながら言うのも何ですが、こうしたバズワードを作り出すことには恐い面もあるのではないでしょうか。

昨日の朝日新聞日曜版に、面白い話が載っていました。スポーツにおける「ひと声」の恐さについて語ったものです:

■ スポーツラボ -- メンタルトレーニング⑤ ひと声かけて惑わせる(朝日新聞 日曜版 2006年9月3日 第3面)

記事は楽天の野村克也監督の話から始まります。有名な話ですが、野村監督は現役(キャッチャー)時代、打席に立った選手に対して様々な「つぶやき」を発していました。それは「次はインコースでいくよ」「ちょっと構えが変わったんじゃないか」などといったごく些細なもの。しかし、

 スポーツメンタルトレーナーの高畑好秀さんは「こうしたつぶやきは、目をつぶってもできるような自動化された動きをぎこちなくさせる」と話す。
 陸上競技のウォーミングアップの時、ライバルに「走り方変えた?」「ひざの動きがいつもと違うよね」と声をかけてみる。相手は必要以上に体の部位を意識して走り方を気にしてしまい、集中力が途切れたり、迷いが生じたりする。「気にしちゃいけない」と思うほど、それに捕らわれてしまうのだ。

と解説されています。「ID野球」というキャッチフレーズ(これもバズワード?)で知られる野村監督が、さしたる効果も無いのに「つぶやき」を続けていたとも考えにくいですから、ちょっとした言葉が与える影響は非常に大きいのでしょう。

ある会社が、自社を取り巻く環境に即した無難な戦略を採用していたとします。そこに外の世界から「パラダイムはシフトした」「これからは○○の時代だ」などといったノイズが入ってきて、この会社の企画担当の耳にも入ったとしましょう。彼/彼女は悩みます。「いまの戦略は当社にとってベストなもののはずだ。しかし流行に乗り遅れる危険はないのか。もう一度見直しをしてみるべきかもしれない。」そして必要以上に細かなデータを気にしてしまい、身動きが取れなくなってしまう・・・まるで「つぶやき」がスポーツ選手に与える悪影響のような現象が、様々な「バズワード」によって組織にも引き起こされる危険があるのではないでしょうか。

もちろんバズワードのすべてが、あらゆる局面で誤りだということではありません。バズワードの震源地となったところでは、それは真実であり、有益な効果をもたらす存在なのでしょう。しかしそれが無批判に礼賛され、声高に唱えられてしまうと、外の世界に騒音として漏れ聞こえるようになります。ノイズと化した真実は、組織をまどわす「つぶやき」でしかありません。

また当然ですが、誰もがつぶやきに惑わされてしまうわけではありません。ノイズの中から有益なシグナルを拾うことに長けた企業、それをサポートするコンサルティング会社や専門家も存在するでしょう。逆にこの効果を利用して、ライバル会社の企画部に「~2.0」系の本を大量に届けるなんていう戦術も考えられるかもしれませんね(笑)。野村監督が打席で行ったつぶやきにならって、「つぶやき戦術」と名付けましょうか?

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