なぜコンサルタントはお金を取るのか
そりゃコンサルティングが商売だから、というのが正解なのですが、「お金を取ることで自分の言うことを信頼させるため」という答えも正解のようです。『ハーバード・ビジネス・レビュー』の最新号に、こんな記事が掲載されていました:
■ 専門家のアドバイスをうのみにするな (ハーバード・ビジネス・レビュー 2006年7月号)
それによると、人間は有料のアドバイスを過大評価する傾向があるそうです。それはこんな実験で証明されました:
- 被験者にアメリカ史について質問する
- 被験者は回答する前に、自分と同程度の専門知識の持ち主であることを知ったうえで、他の被験者にアドバイスを仰ぐことができる
- 上記の内容を、無料でアドバイスが受けられる場合と有料の場合、2通りで実験する
その結果、有料でアドバイスを受けた被験者は、いたずらにアドバイスを信頼する傾向が見られたそうです。この現象の理由について、記事では「支払ったお金が台無しになってしまう」というサンクコストがもたらす偏見と、「コストと品質は関連している」という直感が作用しているのではないかと指摘しています。
この実験で面白いのは、意見を仰ぐ相手が自分と同じ程度の知識しかないと知っていても、お金を払うと相手の意見をうのみにしてしまう傾向があるという点ですね。コンサルタントにとってみれば、お金を請求するという行為は生きていくために必要なだけでなく、相手に言うことをきかせるために必要ということになります。フムフム、これはメモしておかないと(笑)
しかしコンサルタントを雇うユーザーの立場から見れば、この人間心理は非常に問題です。またコンサルタントであっても、外部の情報ソースからデータや分析を買うことはしょっちゅうありますから、「有料アドバイスの魔力」には十分注意しなければなりません。なんとかこの魔力を無効化できないものでしょうか。
実は昨日ご紹介した『POST‐OFFICE―ワークスペース改造計画』という本に、「アイデアを入れておくことができる机」というアイデアが紹介されていました。どんなものかというと、ところどころに穴が開いた机で、中にガチャポンで使うプラスチックのボール(2つに分解して中に小さなものを入れておけるボール)が入っています。ブレインストーミングしている間に、思い浮かんだアイデアを紙に書きとめ、ガチャポンのボールに入れて机の中に投げ込む -- というのが使い方。議論が煮詰まってきたら、おもむろに机の穴に手を入れ、ランダムにボールを拾って中のアイデアを確認します。これの何が良いかというと、「誰の発言か」という偏見を招く要素を廃し、公平にアイデアを評価できるという点。しかもランダムにアイデアと対面することで、「それまでの話の流れ」というこれまた偏見を招く要素を回避できます。
この机、有料アドバイスの落とし穴を回避するためにも使えるのではないでしょか。実際に机を作るのは大変ですが、デジタル上であれば同様の仕組みが簡単に実現できそうです。意見やアドバイスを誰でも匿名登録できて、それをランダムに閲覧できる仕組みがあったら、「実は庶務として雇っているアルバイトの女性が、外部のコンサルタントよりも有益なアイデアを持っていた」などという事態が起きるかも。
まあそうなると、コンサルタントとしては非常に怖いのですが・・・。とりあえずこれからコンサルタントを雇ったり、有料セミナーに出席する予定のある方は、出てきた成果物や資料を「これは会社の新入社員に作らせたものだ」と仮定して見返してみると良いかもしれませんね。