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不足した状況で考える

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以前「発想七日!」の記事(イノベーションを産み出す10の「仮面」)で紹介されていた"The Ten Faces of Innovation"を手に入れて読んでいます。同じ Tom Kelly 氏と Jonathan Littman 氏のコンビによる『発想する会社! 』が大変参考になる本だったので、今回も大きく期待していたのですが、どうやら期待以上の価値を得ることができそうです。

その"Ten Faces of Innovation"の中で、イノベーションを生む源泉の1つとして「不足した状況で考えること」が解説されています。例えば、

Cross-Pollinators frequently approach problems from unusual angles. They sometimes make a practice of "doing without" -- tackling a problem by considering solutions without some key element popularly considered standard or essential. (p.75)
(他家受粉を起こす人は、ユニークな角度から問題にアプローチすることが多い。彼らは時々「~無しで済ます」という練習をする。「~無しで済ます」とは、ある問題の解決方法を考えるときに、「これが一般的な方法だ」もしくは「解決に必要不可欠だ」とみなされている要素を、あえて外して考えてみることだ。)

Sometimes a lack of resources and tools can prove to be the spark that helps you to seek out and make new connections. It goes beyond the idea that "necessity is the mother of invention." Scarcity and tough constraints force you to break new ground because the "business as usual" path is simply not available. (p.78)
(資源や道具の不足は時として、役に立ちそうな知識を探して解決策へと結びつけることを促進する。それは単に「必要は発明の母」というレベルに留まらない。何かが不足していたり、大きな制約条件がある環境では「いつも通りのやり方」が通用しないため、まったく新しいやり方を見出すことを強いられるのである。)

などといった指摘がなされています。ちなみに他家受粉とは『発想する会社!』にも出てくる概念で、簡単に言えば「異なった分野の知識を結合して、新たな仕組みや手法を生み出すこと」を、異なる花の花粉から受粉が行われることに例えて表現した言葉です。

「新たな方法を生み出すためには、何かが不足した状況に追い込まれなければならない」というのは耳が痛い指摘です。長く1つの分野に関わっていると、ついつい「今回も○○というシステムを使えば良いだろう。そのために経費が掛かるけど、それは予算に含めてもらえるはずだから・・・」などといった考え方をしがちではないでしょうか。もちろん過去の繰り返しで十分な場合には、この考え方でも問題ないのですが、イノベーションが必要な場合には対処できません。今までの方法が常に使えるとは限らないのだ、ということを心のどこかに留めておく必要があると思います。

適切な例えではないかもしれませんが、カーレースのF1はよくレギュレーション変更がなされます。その理由は様々ですが、各コンストラクターは新たに課された制約の中でも、これまでを超えるパフォーマンスを発揮するマシンを開発することに挑みます。その中で新たな仕組みやシステムが誕生し、クルマという機械が絶えずイノベーションを続けることに貢献しているわけです。私たちも自分の仕事をレースと考えて、頭の中で「もし急にレギュレーションが変更されて、○○という素材が使えなくなったら何を代替にする?」や「○○というシステムが禁止されてもパフォーマンスを維持する方法は?」などと考えるトレーニングをしてみても面白いのではないでしょうか。

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