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決して最先端ではない、けれど日常生活で人びとの役に立っているIT技術を探していきます。

家庭内/地域内フリーアドレス

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最近読んだ本『メディチ・インパクト』では、異なる学問/ビジネスの分野が交わるところから全く新しいイノベーションが生まれることが描かれ、それを「交差点イノベーション」と呼んでいました。「交差点イノベーション」は確かに説得力のある概念で、「昆虫学×電気通信」(アリが効率的にエサを見つける仕組みを、通信網のルーティングに応用する)のように専門知識同士を組み合わせるものでなくても、日常生活のなかで応用できるアドバイスであるように思います。

例えば先日の日経ビジネス(2006年5月1日号)に、「自由に、しなやかに 『家』をプランする楽しみ」という広告企画が掲載されています。住宅に関する記事だったのですが、そこに掲げられていたイラスト(100ページ)にふと目がとまりました:

「仕事や趣味、子供の勉強など、家族が集まって多目的に利用できる、リビングの一角に設けられたコーナー。」

という説明書きが添えられたものです。イラスト自体は、大きな事務机にイスが数個並べられているというものだったのですが、これを目にしたときにふと「家庭内フリーアドレス」という言葉が頭に浮かびました。

親子間のコミュニケーション不足は、古くて新しい問題です。僕の父親(小学校教師)の話を聞くと、さらに深刻化しているような恐れすら感じます。仮に家族のメンバー=会社員と捉えれば、企業内におけるコミュニケーション不足解消法の1つである「フリーアドレス」を導入してみることが考えられるのではないでしょうか。と言っても「書斎」や「子供部屋」といったプライベートなスペースを無くしてしまうのではなく、日経の広告記事にあったように、作業(勉強/仕事)のためのスペースを共用にするといったイメージです。

僕の父は小学校の先生だった(現非常勤講師)わけですが、あまり勉強を教わった記憶はありません。逆に父が自分の部屋で採点や通信簿の作成などをしていると、近寄りがたい雰囲気があったことを覚えています。そんなとき、もし自由に出入りできる空間に作業用のフリースペースがあり、何か作業をするときはそこに集まる習慣があれば、自然にコミュニケーションが生まれていたのではないでしょうか。そう簡単に解決する問題ではない、とは思いますが、企業で進んでいるフリーアドレスの研究成果を家庭に持ち込んでみても面白いのではないでしょうか。

また同じ発想を、地域社会に持ち込むとどうなるでしょうか。これは既に行われていると聞いたことがありますが、SOHO用の共有スペースを地域社会の中に設け、異業種間での人々の交流を促進するということが考えられるのではないでしょうか。また逆の方向性を考えて、町おこし・村おこしといった地域活性化に関する研究成果が、企業内コミュニケーションでも生かせる部分があるかもしれません。

いずれにしても、普通の人が普通に行っている2つの分野---社会人としての生活と、家庭人としての生活---をまじあわせ、そこに生まれた交差点に立ってみるだけでも、さまざまな新しいアイデアが生まれてくるのではないでしょうか。「交差させられるほどの専門知識を持っていない」という思いを持つ人は多いと思いますが(僕は強くそう感じます)、意外とこの「交差点イノベーション」は身近なものではないかと思います。

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