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AIのせいかどうかは、まだ分からない、『情報漏洩ラッシュ2026』――それでも前提はもう崩れている

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1. はじめに――「またか」が止まらない

最近、朝ニュースを開くのが少し憂うつです。

焼肉きんぐのアプリ、タイムズカー、Gyazo、大和証券、第一興商......。

毎朝のように「不正アクセスのお知らせとお詫び」が流れてきます。

9月1日から10月8日までに公表された国内の情報漏洩・不正アクセスは131件。そのうち24件は、公表件数が10万件を超えています。

日経の須藤龍也記者は、8月下旬からの状況を「相次ぐ」より「激増」と呼ぶべきかもしれない、と書いていました。

実感としても、まさに「情報漏洩ラッシュ」です。

5月に私は「Mythos騒動が暴いた日本の弱点」という記事を書きました。

そのときの見出しは、こうです。

「メガバンクが守れても取引先が落ちる」

――あれから5か月。

今回は、あの記事で感じていたリスクが本当に現実になったのか。冷静に答え合わせをしてみたいと思います。

そしてもう一つ。多くの人が気になっているはずの問い――「これは結局、AIのせいなのか?」にも向き合ってみます。

先に言っておくと、AIのせいかどうかは、まだ分かりません。でも、それとは別に、はっきり言えることがあります。

→ 「AIのせいか」と「前提が崩れたか」は、分けて考える必要がある

2. 前編で何を書いたか、おさらい

前編の主張を、ざっくり4つにまとめるとこうなります。

前編の論点

中身

① 攻撃の速度

脆弱性の公表から悪用まで、人間の判断速度では追いつかない

② 攻撃の損益分岐点

AIエージェントなら数百社を並列で攻められる。中堅企業も「攻める価値」のある対象になる

③ サプライチェーン

直接狙われなくても、委託先・ツール経由で巻き込まれる

④ 人材・予算不足

中堅・中小には専任のセキュリティ担当すらいない

そして結論は、

「メガバンクが完璧に守れても、取引先の中堅企業が落ちれば、結局データは漏れる」

でした。

ポイントは、Mythosという「すごいAI」そのものではなく、日本の裾野の薄さが問題だ、という点です。

この4つを、9〜10月の事案に一つずつ当てはめてみます。

→ 前編の本質は「AIの能力」ではなく「最弱の輪」の話だった

3. 大手は破られず、委託先が落ちた

現場でよくある会話があります。

「うちはちゃんとやってます。ISMSも取ってます」

「で、問い合わせフォームはどこのサービスですか?」

「......さあ。たしか委託先が選んだやつです」

今回、まさにこの「たしか委託先が」のところが破られました。

10月2日夜から3日朝にかけて、問い合わせ管理サービス「i-ask」を提供するスカラコミュニケーションズのサーバーに不正アクセスがありました。管理サイトへの不正ログインと、不正プログラムの設置が確認されています。

影響は最大5社、延べ最大約71万件。その中に、大和証券、シチズン時計、損保ジャパンが含まれます。

大和証券は約22万件(うち約11万人分の氏名・メールアドレス・口座番号など)。

そして、3社とも自社システムへの侵入は確認されていません。

――前編の見出しそのものです。

大和証券は大手証券です。セキュリティ投資もしているはずです。それでも、問い合わせを預けていた先が落ちれば、顧客情報は外に出てしまう。

同じ形の事案は、ほかにも並んでいます。

公表した企業

落ちた場所

規模(公表値)

第一興商(ビッグエコー等)

委託先の従業員PCのマルウェア感染

約872万件に漏えいのおそれ

旭化成セラピューティクス

医療従事者向けサイトの運営委託先

最大約51万人

大和証券・シチズン・損保ジャパン

問い合わせ管理SaaS(i-ask)

最大5社・延べ約71万件

吉野家・はなまる、自治体など

採用管理SaaS(ApplyNow)

利用組織ごとに数百〜数千件

複数の宿泊施設

予約管理システム(TEMAIRAZU)

件数非公表

さらに10月7日には、IDCフロンティアのクラウドがランサムウェア被害を受け、約495の企業・自治体に影響が出ました。

クラウド基盤そのものが「最弱の輪」になるケースです。

→ 論点③(サプライチェーン)は、ほぼ予測どおりの形で現実になった

4. 「パッチが間に合わなかった」という告白

今回の公表文を読んでいて、いちばん刺さった一文があります。

VOISINGの最終報告です。原因は利用していたBIツールの脆弱性で、既知の脆弱性への修正の適用が間に合わなかったことが直接の原因だ、と率直に書いています。約17万件の漏えいを確認しています。

LEAN BODYも似ています。社内の分析ツールMetabaseの脆弱性を突かれ、約44万アカウントが取得されました。必要な更新を実施できなかったことが要因の可能性が高い、と説明しています。

8月にはMetabaseの深刻な脆弱性が公表され、数日で攻撃コードが出回りました。

数日です。

中堅企業で、社内の「分析用にちょっと立てたツール」のパッチを数日以内に当てられる体制がどれだけあるか......。

前編では、公表から悪用までの時間が「年」から「時間」に縮んだ、と書きました。

10万件以上の事案のうち、侵入口が公表されたものの多くは「脆弱性」です。Gyazo、ムラウチドットコム、ミスターマックス、GMOリサーチ&AI、デジタル庁のGSS(VPN機器)......。

狙われているのは、最新の未知の穴ではありません。分かっていたのに塞げなかった穴です。

そして被害企業の顔ぶれは、前編で書いた「中堅企業・自社開発アプリ・SaaSのハブ」とかなり重なります。

→ 論点①(速度)と②(中堅が狙われる)も、現場ではすでに起きている

5. AIのせいかどうかは、まだ分からない

ここで、少しブレーキを踏みます。

「ほら、Mythos級のAIが日本企業を次々に破り始めた」

......と書きたくなるのですが、それを裏付ける証拠は、今のところありません。

9〜10月の事案を整理した分析では、AI悪用が国内の公表増加の主因だと裏付ける公式発表は確認されていない、と結論づけています。各社の公表文にも、攻撃者がAIを使ったという記載はほぼ見当たりません。

公表されている侵入口は、むしろ「昔ながら」です。

  • 既知の脆弱性の放置
  • VPN機器(警察庁の調査では、ランサムウェア被害の侵入口の約5割)
  • フィッシングによるメール・クラウドアカウントの乗っ取り
  • 設定ミス、紛失、誤送信

さらに、公表が増えたことが、そのまま侵入が増えたことを意味するわけでもありません。過去の侵入の続報や最終報告が秋に重なった面があります。また、1つの委託先の事案が、複数社の公表として出てくる面もあります。

世界の統計を見ても、評価は割れています。

見方

主張

Google(GTIG)

悪用される脆弱性は月平均10.5件(2025年)→18件(2026年1〜8月)。AIがペースを変えていると評価

VulnCheck

AI支援で見つかった脆弱性の悪用率は全体とほぼ同水準。特別に悪用されやすいわけではない

とはいえ、AIが攻撃の「ハードル」を下げている証拠は、国内にもあります。

6〜7月には、生成AIで自作した攻撃ツールを使った10代の少年たちの逮捕が相次ぎました。ネットカフェ運営会社から725万件を不正取得した事件もあります。

前編で書いた「攻撃の損益分岐点が下がった」は、こういう形で表れ始めているのかもしれません。

もう一つ大事なことがあります。侵入経路を「模倣防止のため非公表」とする企業も多いのです。

つまり、AIが使われていないとも言えない。

→ 「AIが原因」は未確定。ただし「AIが原因でなくても、これだけ落ちている」のは確定

6. 明日からできること

「AIの脅威に備えよう」と言われても、何から手をつければいいか分かりません。

でも今回の事案を見ると、やるべきことはかなり具体的です。

  1. 「外に見えているもの」の棚卸しをする
    • VPN機器、ファイアウォール、外部公開しているWebツール(分析ツール、管理画面など)
    • 「誰かがちょっと立てたMetabase」が一番危ない
  2. 既知の脆弱性に「数日」で対応できる手順を決める
    • 情報を誰が見て、誰が判断し、誰が当てるのか
    • 当てられないなら、一時的に外から遮断する判断を先に決めておく
  3. 管理用アカウントに多要素認証を必ずかける
    • i-askの件も、楽天ドライブの件も、入り口は管理用の認証情報でした
  4. 委託先・SaaSの「データの預け先マップ」を作る
    • 顧客情報が、どの委託先の、どのサービスに、何件あるか
    • 預けている情報を必要最小限に減らす(古い問い合わせデータは消す)
  5. 「侵入される前提」で、委託先が落ちたときの初動を決めておく
    • 委託先からの第一報を誰が受け、何時間以内に何を公表するか

どれもAI以前の話です。

でも、だからこそ意味があります。AIが攻撃を本格的に加速させたとき、この基本ができていない組織から順に落ちていくはずだからです。

→ AI時代の対策の第一歩は、地味な基本を「速く」回せるようにすること

7. 結論――それでも前提はもう崩れている

答え合わせをまとめます。

前編の論点

9〜10月の現実

判定

① 攻撃の速度

既知の脆弱性が数日で悪用、パッチが間に合わず漏えい

当たり

② 中堅が狙われる

大型事案の中心は中堅企業・SaaS事業者

当たり

③ サプライチェーン

大手は無傷、委託先経由で大量漏えい

ほぼそのまま

④ 人材・予算不足

「更新を実施できなかった」という公表が複数

裏付けあり

(前提)AIが攻撃を加速

国内事案でAI使用の公表はほぼなし

未確定

前編で書いた「構造の弱さ」は、はっきり現実になりました。

ただしそれは、Mythos級のAIに破られたからではありません。

AIが本気を出す前の段階で、すでにこれだけ落ちているのです。

私はこれが、前編よりもむしろ怖いことだと感じています。

今の攻撃が「昔ながらの手口」なら、そこにAIの速度と並列性が本格的に乗ったとき、何が起きるのか......。

だから、「AIのせいかどうか」の答えが出るのを待つ必要はありません。「うちなんて狙われない」「委託先がちゃんとやっているはず」――その前提は、もう崩れています。

――最後に、読者の皆さんに聞いてみたいことがあります。

あなたの会社の顧客情報は、いま、いくつの委託先に預けられていますか?

そしてその委託先は、明日公表される脆弱性に、何日で対応できるでしょうか?

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