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夏目房之介の「で?」

竹内オサム『手塚治虫語辞典』(誠文堂新光社)

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昨年末に出た竹内オサム『手塚治虫語辞典』(誠文堂新光社)。ごらんの通り、装丁もタイトルも地味。勿体ない。竹内は知る人ぞ知るマンガ研究者で、そもそも手塚治虫研究の先駆者である。本書は辞書なので通読の必要はない。ぱらぱらめくって目についた単語を読んでみればいいのだが、尋常の手塚情報本が裸足で逃げ出すような項目がその度に目に飛び込んでくる。本を開いて数ページで「芦田漫画映画製作所」などという、あまり聞きなれない単語にぶつかる。1947年に上京した手塚が、偶然「スタッフ募集」の張り紙を見て尋ねた製作会社なのだとか。おお、これがあの『フィルムは生きている』の主人公が漫画映画スタジオに就職するときの元ネタか! あるいは「一里山(ひとさとやま)健民修練所」の項。手塚が自伝で、鉄条網で囲われた収容所でひどい目にあったと書いているが、手塚の学友によるとそんなことはなかったそうで、どうやら誇張して流す手塚流の誤情報らしい。こんなところまで調べて書ける手塚研究者はまずいない。手塚好きや研究者は手元に置いておきたい本である。あー勿体ない。
、「Dictionary of Ûsamu Jezuka Words 豊 手 無樂 æ ん ご じ ド て 誠 新 竹 内 オ サ」というテキストのイラストのようです
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