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夏目房之介の「で?」

映画『バンテージ・ポイント』

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http://bd-dvd.sonypictures.jp/vantagepoint/
先日、TVでやっていたので観てみた。
構成が面白い。米大統領がスペインで演説しようとした途端狙撃される。しかも、直後の混乱の中で演説会場が爆破される。この一連の事件を、まずTVクルーの目から追い、さらにSPの一人の立場、スペインの警官、米国人の観光客、犯人グループと、いちいち時間を巻き戻して異なる視点から再構成してみせる。この複数視点からの時間再現は興味深いし、面白く観ることができた。
が、残念なことに、後半は平凡な勧善懲悪の追っかけアクションになってしまう。せっかく複数視点で再構成しながら、事実は一つで、価値観もハリウッド的な正義という場所に戻ってしまうので、後半は退屈な展開になってしまうのだ。大統領が無事でよかったね、善良なる米人観光客も幸せでめでしめでたし、というだけの話なのだった。
黒澤の『羅生門』にヒントを得たとかいうのだが、事実は参与者それぞれで異なり、真実は常に「藪の中」なのだ、という思想がなかったんだね。残念。
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