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【書評】『気候工学入門』:地球を冷やす技術

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著者: 杉山 昌広
日刊工業新聞社 / 単行本 / 197ページ / 2011-05
ISBN/EAN: 9784526066962

2008年の北京オリンピックの際、開会式の降雨阻止を目的とした晴天プロジェクトが発足していたという話は記憶に新しい。人工降雨ロケットでヨウ化銀を打ちこみ、雨雲が五輪会場に到達する前に雲を消散させ、晴天を確保するというものだ。祈祷や”てるてる坊主”など、遠い昔の話なのである。

このように気候を科学の力でコントロールしようというのが、気候工学=ジオエンジニアングと呼ばれる手法である。昨今では、このジオエンジニアリングを活用して、地球の温暖化を防ごうという動きが活発化している。各国で有効な温暖化対策が導入されていないため、CO2の排出量が伸び続ける一方にあるためだ。日本でも2020年の温室効果ガス削減目標は25%削減という高い数字が掲げられているが、実現性が低いとの声は多い。本書は、そんな状況を打破しうる気候工学における日本で初めての入門書。幅広く情報をカバーし、初心者でも理解できるようにわかりやすく解説されている。

◆本書の目次
プロローグ 宮沢賢治の夢
1 なぜ今、気候工学か
2 「危険」な気候変動の対抗策としての気候工学
3 歴史と動向
4 気候工学の概要
5 太陽放射管理
6 CO2除去
7 効果・コスト・問題点
8 気候工学の研究:現状と今後
9 気候工学に関わる人々の意見
10 社会はどう向き合うべきか:気候工学のガバナンス

このジオエンジニアリングという領域には、批判の声も多い。そもそも、人間は地球の自然の基礎である気候をコントロールする権利があるのだろうか、というものである。人間が神に成り代わって適切な気候を作り出すという行為に、自然への冒涜であると主張する声があがるのも無理はないだろう。それでなくても、気候システムという複雑系を、副作用なしに制御することが可能なのだろうか?

温暖化対策としてのジオエンジニアリングには大きく分けて二つのやり方がある。一つは太陽光を反射させる方法、もう一つは、CO2を大気から除去する方法だ。例えるなら、前者は外科治療、後者は内科治療のような違いがある。

太陽光反射管理にはいくつかやり方があるのだが、現在一番注目を集めているのが、成層圏エアロゾル注入というものであるそうだ。対流圏と成層圏の境目のあたりに、太陽光を反射する浮遊物質を散布して、地球の反射率を高めるという手法だ。これは火山の噴火などの際にも、近い現象が見られるという。1991年にフィリピンのピナツボ火山で起こった噴火では、大量の火山灰が巻き上がり、その結果地球全体の気温を0.5度下げたと言われている。

CO2除去の場合には、海洋に微量栄養素である鉄を散布し光合成を促進する海洋肥沃化と、大気から工業的に空気を回収する直接空気回収のやり方が最も関心を集めている。この方法は、太陽光反射管理に比べて対症療法ではないので、副作用が小さいと考えられている。しかし、即効性に課題があると言われている。

いずれにせよ、これらのジオエンジニアリングによる手法の是非を検討する余裕はあまりない。むしろ踏み込まざるを得ない状況であるという方が、適切であるだろう。これらの手法が、自然への冒涜に値するかと問われると、個人的には、全くそのようには思わない。真夏にクーラーの入った部屋にいることを、自然への冒涜と思わないのと一緒である。これを地球規模でやるということであり、要は、運用の問題に尽きるだろう。

この手の問題の多くがそうであるように、社会科学的な検討も必要である。とりわけガバナンスの問題は、課題が山積みである。地球の温度設定を誰が管理するのか、もし副作用が特定の地域のみで起きたら、だれが補償するのか。

地球には国境があるが、気候には国境がない。その一点にこそ、解決しなければならない最大の課題が潜んでいるのではないだろうか。

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