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「ポケットU」についてもう少し詳しく検討してみる(2)

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MYUTA事件(イメージシティ事件)(判決文(PDF))では、以下の点が考慮されて、カラオケ法理が適用され、公衆送信の主体はサービス事業者である(ゆえに、公衆送信権が侵害されている)と判断されました。

1.サービスに不可欠な行為として送信が行われている。
2.サーバはサービス・プロバイダーの所有であり、その管理下にある
3.送信機能はサービス・プロバイダーの設計である
4.ユーザーが個人レベルでCDの音源データを携帯電話で利用することは相当困難
5.ユーザーの行為はシステムの設計に基づく

ポケットUでは2の点が違います。(しかしながらファイルローグ事件でもわかるように、送信を行なっているコンピュータがユーザー所有というだけでは、カラオケ法理の適用は否定されないと思います。全体的に見てサービス事業者がどの程度関与しているかで判断されると思います)。また、ドコモの資料からでは明らかではないですが、パソコンからファイルをいったんドコモのサーバにアップロードしてから携帯に配信するような実装であると、さらにMYUTAとの類似性が強まるでしょう。

また、4の条件も微妙かと思いますが、MYUTAの場合でも、CDをリップして着うた化するのは市販のソフトとケーブルを使えばできた(スキルがあれば個人でもできた)話なので、「相当困難」の度合いはポケットUでもあまり変わらないかと思います。

ここで、MYUTAでは、自分がアップしたCDは自分の携帯にしかダウンロードできないようにシステム側でちゃんとチェックしているのに、なぜ「公衆」送信とされたのかという疑問が生じると思いますが。判決文では、以下のように解釈されています。

なお,本件サーバに蔵置した音源データのファイルには当該ユーザしかアクセスできないとしても,それ自体,メールアドレス,パスワード等や,アクセスキー,サブスクライバーID(加入者ID)による識別の結果,ユーザのパソコン,本件サーバのストレージ領域,ユーザの携帯電話が紐付けされ,その機器からの接続が許可されないように原告が作成した本件サービスのシステム設計の結果であって,送信の主体が原告であり,受信するのが不特定の者であることに変わりはない。

これは、個人的にはかなり違和感を感じる解釈です。ポイント・ツー・ポイントで専用線でも引かなければ全部「公衆」送信になってしまいそうな気がします。

もうひとつのポイントは、外部観察する限りは、自分のCDを、自分の操作により、自分のパソコンからリップして、自分の携帯にダウンロードして使うという一見私的複製ぽく見える態様であるにもかかわらず侵害とされてしまったことだと思います(元々のカラオケ法理と似てます)。

次に、セーフだったケース(カラオケ法理が適用されず、公衆送信権の侵害とされなかった)として「まねきTV」について見てみましょう(判決文(PDF))。

まねきTVは利用者がソニーのロケフリ機器を買って業者側でハウジング(ホスティングではない)をしてもらうことで、ネット経由でTVを見るためのサービスです。権利者側は、ユーザーに機器を買わせてハウジングするのは、実質的に業者側がホスティングサービスをしていることの仮装ではないかという趣旨の主張をしてますが、そうではない(送信しているのは個々のユーザーである)と判断されてます。根拠は、1) 世の中で売っている汎用製品であるロケフリをユーザーがそのまま自分で買って使っている、2) このサービスのための専用ソフトが業者側から提供されていない、3) 業者側はハウジングサービスの相場料金以上の料金を取っていない(サービス自体からは料金を取っていないと判断できる)等です。

ポケットUはドコモ提供の専用ソフトを使ってますしサービス料金も徴収してますので「まねきTV」と同じではありません。

ということで、ポケットUは「アウトだったMYUTA」と「セーフだったまねきTV」の中間的形態と言えると思います。個人的には、法律上のリスクがないとは言えないと思います。

この辺は、まだはっきりした解釈も固まってないと思いますので、いろいろと意見はあるかと思います。建設的反論をお待ちしています。

また、複製権については話が長くなるので触れませんでしたが、もし、ドコモ側のサーバに1回蓄積するような実装であるとすればアップロード時の複製権の問題も生じてくるでしょう。

もうひとつの問題は権利者側(典型的にはJASRAC)が訴えるかどうかですが、着うたフルの収益に悪影響があると判断される可能性がありますが、さすがにドコモを訴えるのには慎重になるでしょうね。ひょっとすると既に水面下で話し合いをしているのかもしれませんし。

個人的には、いっそのこと法廷で争って、この手のネットサービスに対するカラオケ法理の適用の歯止めとなるような「画期的判決」を出してもらいたいものだと思ってます。

今までの説明は「現行の法解釈はこういう方向性にあるよ」という現状の説明(as is)であって、個人的にはこういう解釈があるべき姿(to be)だとは思ってません(他にも「カラオケ法理」に批判的な人は結構います)。

これから、「クラウド・コンピューティング」時代となり、サービスもデータも機器も全部「向こう側」で管理されるようになる方向性が強まっていくでしょう。そんな中で、サービスの主体はサービス業者だから公衆送信権侵害でアウトみたいな判例が固まっていくとかなりよろしくない結果になると思います。

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