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著作権法の改正を検討する際の他の選択肢について

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知財に関するファンダメンタルな話題の続きです。今回は立法論というか制度改正における考え方の話です。

知的創造物(たとえば、著作物性がないデータベース)を保護するためには民法709条でだけでは心許ないのでもっと強力な保護が必要だという社会的要請が生じたとします(あくまで例なので、本当にデータベースの保護が必要かという議論はしません、仮に必要だとしたらというお話しです)。

著作権法を改正してデータベース(の中身)を著作物として保護対象にする(※)というのが一番直球で、かつ、保護が強力(50年間にわたる独占権、刑事罰あり等々)なので権利者にとっては都合がよい制度設計でしょう。しかし、これが唯一の解決策というわけではありません。

たとえば、別途、保護のための法律、たとえば、「データベース保護法」というようなものを作ることが考えられます。日本では、半導体のレイアウトは著作権法とは半導体回路配置保護法により守られており、登録から10年間保護されます。こういうやり方だと技術と業界の実状に合わせて、保護の強さを調節することができます。

最後の手段は独占的権利を与えるというやり方ではなくて、特定の行為を規制するという形で間接的に保護を提供するというやり方です。「データベースの作者はデータベースを無断で複製する行為を差し止めできる」というような規定を制定することが考えられます。たとえば、ドメインスクワッティングという問題の解決のためには、ドメイン使用権みたいな独占権を法律で規定する方法もあります、また、他人の商標と類似したドメイン名の許諾なき使用は商標権の侵害であるとして商標法で処理する方法もあるでしょう。しかし、日本の現行制度では不正競争防止法(2条1項12号)において以下のような行為が不正競争にあたるという規定を設け、差止めと損害賠償請求権を認めるというやり方でドメインスクワッティングを規制しています。

不正の利益を得る目的で、又は他人に損害を加える目的で、他人の特定商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章その他の商品又は役務を表示するも のをいう。)と同一若しくは類似のドメイン名を使用する権利を取得し、若しくは保有し、又はそのドメイン名を使用する行為(※※)

ということで、何か新しいタイプの知的財産を保護したい場合や著作権法上の抜け穴をふさぎたい場合には、著作権法の改正だけが唯一の手段ではありません。不正競争防止法のような行動規制的なやり方を取った方が「副作用」が小さくて済むということも充分考えられます。たとえていえば、設計変更ではなく、アドオンやプラグインで対応しましょうというという考え方です。

※ 今の著作権法でもデータベースの著作物は保護されますが、これは、「その情報の選択又は体系的な構成によつて創作性を有する」データベースの構造を保護するという話であって、中身のデータの保護とは話が別です。

※※ まったくの余談ですが、ここでの「不正の利益を得る」とは、ドメインを高額で売りつけることだけを意味するのではありません。たとえば、他人の顧客吸引力にフリーライドしてアフィリエイト収入を得ること等も厳密には「不正の利益を得る」ことになるでしょう。

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