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音楽配信ビジネスの破壊王(?)lala.comについて

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昨日のエントリーでもちょこっと書きましたし、CloseBox and Openpodの松尾さんは既に試されたというlala.comの新サービス(参照記事)ですが、法律ギリギリの範囲でかなり破壊的なことをやってるなという印象です。ちなみに、lala.comは以前にちょっと書いたCDの物々交換サービスをやっている会社です。

この新サービスのポイントですが、「どこでも聴ける自分専用音楽ライブラリとプレイリストの共用機能」を(米国の著作権制度の範囲内で)合法的に提供しましょうということです。ユーザーの立場から言えば、自分が買った楽曲を(他人に勝手にコピーして配らないという前提で)自由にどこでも聴けるというのは当然の要望と思います。

lala.comのWebサイト外部記事(英文)から推定すると以下のような機能があるようです。

1.ユーザーのパソコンをスキャンしてlala.comのサーバ上に個人用楽曲ライブラリ作成
 ここでは「ユーザーのパソコン上にある楽曲ファイルはユーザーが聴く正当な権利を持っているはずだ」という前提の元にライブラリを構築します。lala.comのサーバ上にない楽曲ファイルだけを物理的にアップロードし、既にサーバ上にある曲はアップロードしません。

2.Webベースの専用プレーヤー
 Webベースのプレーヤーからサーバ上の楽曲ファイルをストリーミングプレイできます。プレーヤーさえインストールしておけば、どこからでも自分の音楽ライブラリを聴けます(もちろん、他人のライブラリは聴けないようにアクセス制御しています)。

3.他人とのプレイリストの共有機能
 他のユーザーにプレイリストを公開して、共有することができます(当然ですが、楽曲ファイル本体は共用できません。)

4.ネット・ラジオとのシームレスな融合
 他人のプレイリストをプレイする際には、当然ながら自分が聴く権利を有しない楽曲がリストに含まれているでしょう。この場合には、その曲はPandora式のパーソナライズド・ネット・ラジオの形態でプレイします。これは、lala.comのユニークな点ではないでしょうか?楽曲のプレイの順番を変えて、同じアーティストの曲が2曲続けてかからないようにする等にすることで、DMCA(米国デジタルミレニアム著作権法)で定められたネット・ラジオの規定を遵守するようにしています。ユーザーは、「この曲なかなか良いな、まとめて聴きたいな(あるいはiPodにダウンロードして聴きたいな)」と思えばCDを購入することになるわけです。

5.iPodへの同期機能
 iTunesをバイパスして、サーバ上の音楽ライブラリからiPodへの直接同期が可能です。なお、パソコンのディスク上への同期は不可能となっています(これができてしまうとiTMSで買った曲等についてはライセンス違反になってしまうからでしょう)。

収益モデルは、今のところ、CDの購入のみです。無料サービスですし、広告も使用していません。

このサービス、法律を遵守した上でユーザーに最大限の利便性を提供するサービスと思われる人もいるでしょうし、法律の抜け穴を利用した脱法的サービスと思われる人もいるかもしれません。ただ、重要な点はこのサービスが勝手サービスではなく、ちゃんとWarner Musicとの提携を行っているところです。他の大手レコード会社との提携も交渉中のようです。少なくともWarner Musicは合法的なWin-Winのビジネスモデルを築ける可能性ありと踏んでいるということでしょう。

外部的に見れば、自分がCD(あるいはダウンロード楽曲)を持ってる曲は聴ける、持ってない曲は聴けない(ラジオとしては聴ける)ということで、米国著作権法のフェアユースの考えに照らせばあまり問題ないように思えますが、現在の日本の著作権法の解釈ですと、公衆送信権および複製権の侵害となる可能性が高いように思えます。それから、ネット・ラジオ部分は日本ではレコード会社の個別の許諾を取る必要があるので難しいでしょう。日本ではやりたくてもできないことばかりを集めたサービスとも言えます(シニカル)。

上記の記事でも「このアイデアは"a little bit crazy"と思うが成り行きを見守りたい」としています」。CNETの記事によりますと、lala.com創設者は「今後2年間で1億6千万ドルのライセンス料を支払い、4千万ドルの赤字になるかもしれない」と述べています。「ユーザーの70%はただ自分のライブラリを聴くだけのただ乗り客だが、残りの30%がCDを買ってくれるだろう」とも述べています。

私としても本当にうまくいくのかいなと思ってしまいますが、このようにちょっと破天荒なビジネス・モデルでも大手レコード会社とちゃんと提携でき、VCも資金を出してくれる米国のネット業界はやはり懐が深いと感じざるを得ません。


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