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「おふくろさん」事件続報

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Yahoo!ニュース経由サンケイスポーツの記事によりますと、川内氏が自分の作品を森進一に歌わせないようJASRACに訴えているそうです。

これは法的には全然意味がありません。JASRACは著作権者の著作権管理を包括的に信託契約しているだけなので、特定の人に対して演奏権を許諾したり、しなかったりということはできません。川内氏ができるのは、同一性保持権あるいは翻案権の侵害として、「バース付きおふくろさん」を歌わないよう森進一側に要求する(そして、要求が通らなければ告訴する)ことだけです(ただし、曲にバースを付けるのが同一性保持権や翻案権の侵害に当たるかどうかは微妙と思われます)。いずれにせよ、おふくろさんのバースなしバージョンや川内氏の他の曲を森進一が歌うことを禁止することはできません。

もうひとつ、川内氏がJASRACとの信託契約を解除するという手もありますが、そうするとおふくろさんに限らず川内氏のすべての曲を歌うことについて、森進一に限らずあらゆる歌手が川内氏(の著作権を管理している音楽出版社)と個別に契約を結ばなければならなくなってしまい、商業音楽としては現実的にきわめて利用されにくい状態になってしまいます。

もちろん、これは法的な議論に限っての話であり、業界の礼儀として、森進一側が川内氏の許しが出るまで同氏の作品は歌わないとしたりするのはまた別の話であります。

追加:  今回の件で曲の前に「語り」をつけるのは同一性保持権の侵害に当たらないのではないかとの意見が聞かれますが、前にも書いたようにこのケースは「語り」ではありません「バース」です。通常、バースと歌の本体はひとつの曲として扱われますので、同一性保持権の侵害に当たると解釈される可能性もありかと思います(100%確実ではないですが)。

また、これは法律論とは直接関係ない個人的感想ですが、私が自分が作った曲に勝手にバースをつけられたとしたらかなり気分を害するでしょう。特に、この「おふくろさん」の例では、追加部分は「蛇足」とも私には思えるのでなおさらです。川内氏のわがままというだけで片づけられる話ではなさそうです。

追加^2(07/03/07): JASRACのWebサイトに改変バージョンが利用されることが判明した場合はおふくろさんの利用許諾できませんとのリリースが載りました。特定の楽曲を許諾しないという法的根拠がよくわかりません(なんせ、JASRAC自身のサイトに「JASRACは著作者人格権の問題には関与できません」と書いてあるくらいですし)。著作権管理事業者は「正当な理由がない限り許諾を拒否できない」とされていますので、同一性保持権侵害の疑いがあるということは「正当な理由」にあたるということかもしれません。

いずれにせよ、JASRAC的にはオリジナルバージョンおふくろさんおよび川内氏の他の楽曲の許諾を拒否したり、森進一に対してだけ許諾を拒否したりすることはできないのは当然です。ということで、もちろん、川内氏の元々の要求である「自分の曲を森進一にだけ歌わせない」という要求が通ってるわけではありません。

個人的感覚ですが、業界の重鎮である川内氏から要求が来たのでJASRAC側も(たとえポーズだけでも)何らかの対応を取らざるを得なかったということでしょうか?仮に無名の若手作曲家から同じような要求が来たらどうしてたんだろうなと思ってしまいます。

Comment(2)

コメント

エクサ

>栗原様
自分の記憶が正しければですが、JASRACへ委託するということは、
字面は「委託」ですが、契約上は「移譲」になるんじゃなかったでしたっけ。
つまり、「権利者は川内氏、JASRACはその処理を代行」じゃなくて、
「JASRACが権利者そのものになる」ような契約になっていると聞きます。

だからこそ、「ミュージシャン本人が自分の歌を歌う場合でも、
JASRACへ申請し、料金を支払う必要がある」ことの法的根拠になるのだし、
「正当な理由が無い限り、委託物の利用を拒否してはならない」ということになるのだと。

少なくとも法的には、「おふくろさん」の上演権(実演権)の
権利者は川内氏ではなく、JASRACであり、川内氏のやっていることは、
「他人が持っている権利に対して、権利者でないものが口出しをしている」
格好になるんではないかと。

ミュージシャンやアーティストがJASRACへ楽曲を委託するということは、
「楽曲の権利を契約期間だけ失う」、それゆえに「曲が自分の自由にならない」
(自分で自由に歌えないし、利用の拒否権も基本的に失う)ことと引き換えに、
「取りっぱくれなく料金を徴収する組織から、利用料を受け取る」ことを選ぶ、
ということのはずです。

川内氏の心情は理解できますが、「利用に関して、法的には拒否権を失う」
ことと引き換えに分配金をもらうことを選んでいるわけですから、
川内氏の主張は法的に無意味どころか、「筋違い」であるといえるのではないでしょうか。

森氏に歌わせたくない(楽曲の利用に関する拒否権を取りもどしたい)のなら、
JASRACからその権利を引き上げるのが筋なのではないのかなぁ。

エクサ

続報についてですが。

>栗原様

>特定の楽曲を許諾しないという法的根拠がよくわかりません
>(なんせ、JASRAC自身のサイトに「JASRACは著作者人格権の問題には
>関与できません」と書いてあるくらいですし)

JASRACのいう「許諾しません」は、「禁止します」ではなく
「関与しません」という意味ではないかと。

「バース付きおふくろさん」に対して「許諾」を出すのは
「権利侵害の恐れがある楽曲の利用許諾を出した」ことになり、
それは文字通り「越権行為」でしょう。
それどころか下手をするとJASRAC自身が「人格権侵害」の幇助行為に問われかねない。
かといって、文字通り人格権には関与できないわけですから「禁止します」ともいえない。
だから、「バース付きは、許諾を”出せない”」のではないですかね。

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