アジャイル開発がSIビジネスと相性が悪い本当の理由
「NTTデータ、アジャイル開発の専門組織を設置・人材育成も展開(ZD Net Japan)」
こんな記事が目にとまった。大手SIerも取り組みに本腰を入れ始めたのかと想いながら、記事を読み始めて、いろいろと疑問がわいてきた。
最近、アジャイル開発を実践される方に話を聞く機会が増えている。先日出版した拙著「システムインテグレーション崩壊」でも、SIerのアジャイル開発への取り組みについて、ページを割いて事例を紹介しているが、そういう方々の話を聞けば聞くほど、アジャイル開発は手法ではなく、働き方や組織運営のあり方だと感じる。
先日も某大手SIerの方に話を伺ったが、アジャイル開発について、いまは自社の研究所で研究している段階で、手法の有効性を検証しているとのことであった。果たして、そういう研究成果が、働き方や組織運営のあり方を変えることになるのだろうかと、疑問に思った。
NTTデータの取り組みについて、本記事を見ると、「アジャイル開発手法でのシステム開発プロジェクトを推進」とか、「より高度なアジャイル開発手法でのシステム提供を目指す」などと書かれている。直接当事者から聞いたわけでもなく、記者の書き方の問題かもしれないので、善し悪しの言及はさけるが、なんか視点のズレを感じている。
実践者達の話を聞いて思うことは、アジャイルは人月積算の収益モデルを前提には成り立たないだろうと言うことだ。アジャイル開発は、「全部作らない」ことを前提に、開発生産性と高品質を追求する。トヨタ生産方式(TPS)や改善手法を範とした「ジャスト・イン・タイムでシステムを開発するための取り組み」との説明を受けたこともある。
これは、効率よく働き工数を減らし、その余力を変更への柔軟性や品質の向上につなげようという取り組みと言うことになる。工数を増やすことが事業目標と考える従来の受託開発ビジネスとは、明らかに相容れないスタイルだ。お客様との関係も変わるだろう。
つまり、従来型の収益構造や事業体制、お客様との関係を変えることとセットでなければ、いくら手法を駆使したところで、アジャイル開発が標榜する価値を引き出すことはできないだろう。
規模は全く違うが、先日、ある中堅SIerの社長から「アジャイル開発をやってはみたが、うまくいかないのでやめた」という話を聞いた。詳しく話を聞けば、WBSを前提にプロマネがしっかりスケジュールを管理し、XPなどの手法でやってはみたがうまくいかなかったので辞めたと言うことらしい。
全部作るウオーターフォールを前提とした受託請負開発であり、お客様からの変更要求に柔軟に対応するということは目的になく、アジャイル開発の手法で工数を減らし原価率を下げたいとのことであったようだ。うまくいかないのも当然だろう。
この記事だけからは、収益モデルや働き方といったところは見えないが、これもあわせて取り組まなければ、この取り組みを定着させることは難しいのではないかと思う。
さて、アジャイル開発の実践者諸氏は、この記事をどう読まれたであろうか。ぜひ、ご意見を伺いたい。
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「仮想化とSDx」について解説文を掲載しました。
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〜これからSIerはどう生き残ればいいか?
- 国内の需要は先行き不透明。
- 案件の規模は縮小の一途。
- 単価が下落するばかり。
- クラウドの登場で迫られるビジネスモデルの変革。
工数で見積もりする一方で,納期と完成の責任を負わされるシステムインテグレーションの限界がかつてないほど叫ばれる今,システムインテグレーターはこれからどのように変わっていくべきか?そんなテーマで考えてみました。