伝わる資料は「アウトプット思考」と「デザイン思考」の成果
毎週水曜日の夜(会場の都合で曜日が変わることもあるが)、18:30〜20:30、ITソリューション塾を開催している。一期10回の講義で、ITの最新トレンドをわかりやすく、体系的に整理して学んで頂く場として、2009年の5月から始めたもので、足かけ5年になる。今年の5月から始まった今期(第16期)には、60名が参加されている。
この塾を始めたきっかけは、「IT営業がITを知らないのでいいのか?」という問題意識からだった。
あるユーザー企業のIT部門のコンサルでお邪魔していたときである。あるITベンダーの中堅営業の方が、仮想化についての提案をしてくれたのだが、仮想化のトレンド、将来のこと、今回の提案対象となっている仮想化製品以外の製品との比較など伺ったところ、ほとんど何も応えることができなかった。
人のことを言えた義理ではない。当時の自分もクラウドと仮想化、データセンター・サービスの区別がつかなかった。自分の恥ずかしさもさることながら、相談を求めた営業が、自分の関わるビジネスに関連したテクノロジーの常識をまともに語られないというのは、何ともお粗末な話であり、一瞬にして、お客様からの信頼を失ってしまった。これじゃあまずいだろう、という想いが募っていった。
当時、リーマンショックの影響もあり、コンサルや研修といった「不要不急」の仕事は、ほとんどなく、暇をもてあましてもいた。また、喰うために何か仕事をしなければならなかった。
ならば、自分の勉強もかねて、ITトレンドについて講座を作ろうと始めたのが、ITソリューション塾の始まりである。ここに、これまでも取り組んでいた「営業スキル」についての講義、例えば、「セクシーな提案書の作り方」、「顧客満足の科学」、「課題を探る会話術」などの講義をも組み込んで講義を組み立てていった。
初回は友人達に頼み込んで数名のご参加を頂いた。あのときの資料を見直すと、なんともお粗末で恥ずかしい限りだ。
知識のない自分は、当時、ネットや書籍から必死で資料をあさり、情報システムの基礎も学びなおした。そして、テーマ毎にプレゼンテーションをまとめる日々が続いた。
「どうすれば、わかりやすく説明できるだろう」と想いながら、白紙の上にペンを走らせ図表を何枚も書いた。そして、何度も見直し、本当にこの表現で良いのかと自問自答しながら、下書きを作り直していった。
「おっ、これはいい」と納得できる図表ができあがったとき、なんとも言えない達成感がある。これをパワーポイントで書き上げて資料にしてゆくという繰り返しだった。
今思うと、その経験が今も役に立っている。「どうすれば、わかりやすく説明できるだろう」と考え、それをアウトプットしようとすると、結果として、何が「幹」で、何が「枝葉」かが見えてくる。その「幹」に絞って、図表を作れば、自ずとわかりやすいものになる。そのことを友人が、「アウトプット思考」と命名してくれたのだが、そのお掛けで、それは自分の得意技になった。
そんなことを5年も繰り返してきた。おかげさまで、最初数人の受講生を集めるのにも苦労したITソリューション塾に、今では毎期定員を超えるまでになっていった。
改めて思うことだが、誰かに「伝える」ということは、自分がそれを納得できなければならない。自分に「伝わらない」ことは他人にも伝わらない。だから、自分に分からせるために、「幹」を探し、それを絵に描き、言葉を紡ぐ。それをプレゼンテーションにしているのだ。
また、「デザイン」にも気を配っている。
アメリカの建築家のルイス・ヘンリー・サリヴァンは、「形態は機能に従う(Form Follows Function)」という言葉を残している。「何かを実現するための機能を追求すれば、自然にその形は決まる」という意味だ。
スティーブ・ジョブスもまた、「デザインとはどう見えるかではなく、どう機能するかである」という名言を残している。アップルの洗練されたデザインは、決して美しさを追求したから生まれたわけではなく、目的を達成するために必要な機能を追求した結果として生まれたのだというのだ。
これは、資料作りにもそのまま当てはまる。つまり、何かを伝えようとするとき、その目的をもっともうまく伝えられる「かたち」がある。図表であれ、単語であれ、こうでなくてはならない「かたち」がある。これを見つける取り組みが「デザイン」だ。結果として、相手に美しいと思わせることができる。デザインを意識して考えるので「デサイン思考」とよんでもいいかもしれない。
「アウトプット思考」も「デザイン思考」も、まだまだ納得できるレベルではない。いや、いつまでも納得などできないだろう。だからこそ、いつも、いつまでも楽しめる。
ITソリューション塾は、そんな取り組みでもある。だからこそ、受講者も楽しんでもらえるのではないかと、自分なりに納得している。少々、手前勝手ではあるが・・・
今週のブログ ---
マーケティングなきSIerの厳しい将来
Facebookページを開設しています。ご意見など頂ければ幸いです。
ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/ LiBRA
Kindle版 「システムインテグレーション崩壊」
〜これからSIerはどう生き残ればいいか?
- 国内の需要は先行き不透明。
- 案件の規模は縮小の一途。
- 単価が下落するばかり。
- クラウドの登場で迫られるビジネスモデルの変革。
工数で見積もりする一方で,納期と完成の責任を負わされるシステムインテグレーションの限界がかつてないほど叫ばれる今,システムインテグレーターはこれからどのように変わっていくべきか?そんなテーマで考えてみました。