オルタナティブ・ブログ > 猫のベロだまり >

ある時はコンピュータの製品企画担当者、またある時は?

近所にころがっている素朴な疑問

»

かつて初めて妻の実家にお邪魔するべく向かう途中に、「えらいイナカに来たもんだ」と感じたのは、高層ビルが立ち並んでいない風景でも、周囲に広がる田園風景でもなく、道路脇の所々に設置されているコイン精米機の存在によるものであった。車を数100メートルも走らせれば、必ず道路脇に一台は鎮座しているのを見かける、電話ボックスを横に2~3倍に拡張した程度の簡易な施設で、玄米を投じると白米を精製してくれる自動販売機みたいな機械が中に置いてあるとのだそうな。コーヒーだって豆を挽いてから入れるまでの時間は短い方が良いのと同じで、米もなるべく炊く直前に精製するようにした方が風味が落ちないのだろう。さすが水田地帯は違う。農家でもない限り玄米のままで米を入手・保管する事はまずないだろうから、こういった地域限定で見られる設備なんだろう、と自分なりに結論づけていた。以来、精米機イコール水田のある風景、という図式が僕の頭の中に出来上がったのである。都心への距離がはるかに近い僕の実家の近所で見かける事はあり得ないのだから。

その後何年か経ち、都会とは言えないが田園風景とも縁遠い、通勤にそこそこ便利な今の住宅地に引っ越してきた。都心への距離は、僕の実家よりもなお近いところにある。ところが落ち着いた後にしばらく経つと、徒歩2~3分といったところの交差点脇に、僕がイナカの象徴と思い込んでいた、かのコイン精米機が設置されたのである。何と場違いな。近くに農家なんかないし、最寄の水田まで少なくとも数キロはあるはずだ。こんな住宅地では需要なんか皆無に違いない、何と無駄な投資だろう、という勝手な予想は見事に裏切られて、時々脇に車が止まっていて、米を機械に流し込む音が聞こえたりするのである。近所のスーパーで玄米を売っているのを見た記憶はない。精製中の玄米は農家から直接入手したものだということだろうか。どこのどなただかは知らないが、よくもこんなに名もない交差点に精米機があることを探し出したものだ。

どうしてこんな物がこんな所にあって、どんな人が利用するのだろう。周囲のご近所さんで、僕の素朴疑問に対する回答を持ち合わせている人は未だに見つからない。そしてそもそも精米機ってどんなふうになっているのだろう。僕自身が利用する事はまずあり得ないだろうけれども、精米機ボックスに入って中身をしげしげと観察してみたいのだが、振る舞いが怪しいと疑われたりしたらどこで通報されるかわからない。悪事を働くつもりはなくても、余計な事はしないのがあるべき正しい姿なのだろう。半ば仕方なく、好奇心が満たされないままに、路上にこぼれた米をついばむ鳩を、通勤途上で横目に見ながら通り過ぎる日も数年になろうとしている。

Comment(0)