ドラゴン桜
最近は殆んど漫画を読むことはないのだけれど、僕にとって唯一の例外がある。阿部寛扮する桜木弁護士が経営破綻しかかっている龍山高校を再建しようと、教師となって落ちこぼれ高校生を東大に合格させるまでを描いたTVドラマ「ドラゴン桜」が2年前に放映されていた。この三田紀房原作の漫画単行本を1巻から最新の20巻まで揃えている。「人生に比べりゃ、東大なんて楽勝だ!」とか「(龍山高校の魅力とは)東大合格百人だよ!」といったような、時折言い放たれるセリフが、人の本心を突いていてなかなか小気味よい。
上に紹介したセリフは桜木弁護士のものである。経営再建のために「個性の尊重」とか「人間性と思いやりの心」といったスローガンを掲げようとする教師に対して、桜木弁護士は市場が求めるニーズを満たすべく、東大合格者を輩出し進学校化を進めるべきだと主張する。そしてこれらスローガンは抽象的で具体性がないと一蹴する。教師となってはいるが、その性質はビジネスマンそのものであろう。極端な言い方はしているが、昨今のゆとり教育見直し論議の本音の一部が垣間見える。そして東大合格と言う目標に向かって戦略を立て,それを忠実に実行しようと奮闘する。さらに「東大出りゃ人生180度変わるんだがな」と、生徒に畳み掛けて動機付けを行なう。
受験漫画(というジャンルがあるのかどうかわからないが)ではあるが、ビジネス書のようでもある。もちろんフィクションなので、特別進学クラスの生徒2人に対して、何人もの教師が専属で担当するなんて現実にはあり得ない。でもビジョンと動機付けを明確にして、最適な戦術を模索して実行し、データでもってその達成度合いを測り、適宜戦術の微調整を行なう、なんてビジネスそのもの、いや人間の活動そのもののあるべき姿のようだ。僕自身もかつてこうやっていれば、もう少し効率よく受験に臨む事ができたかもしれないなと思う。
「東大入るなんて楽なもんよ!」というセリフも意外である。基礎学力を徹底的に鍛えて思考力を磨き、基礎的な問題で確実に点を稼げればよい、という分析から導かれた結論である。基礎が大事という至極当たり前のことを述べているに過ぎないのであるが、結構ビジネスの現場でも当たっているような気がする。結局のところ重要なのは、小中学校レベルの学力がしっかりしているかどうかだったりするのかもしれない。他人に読んでもらうための作文力、漢字の読み書き、四則演算と若干の応用がおぼつかなければ、人に信用してもらえない。
こういった学力は、僕の年では今更もう取り返しがつかないかもしれない、と考えるとちょっと恐ろしい。スキルを磨けと言われたところで、その実は既にもう勝負がついているのかもしれない。せいぜい「大人のための能力開発」(任天堂DS用のゲーム)で脳を鍛えるべく悪あがきしてみようかな。