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テレビのデジタル化がドライビングフォースとなり、全ての情報メディアが一旦、収縮する時代の羅針盤

米国家電見本市(CES2011)が加速させたスマートテレビの汎用セットトップボックスへの変貌

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<序論>

 

米国家電見本市(CES2011)を境にスマートテレビの汎用セットトップボックス化が加速し始めました。地上派のテレビ放送とインターネットの動画をマッシュアップすると言ったスマートテレビの従来のスコープ(守備範囲)がCATVなどの有線テレビの吸収、専用ゲーム機の吸収とコードカット、私的な写真やビデオなどパソコンの用途の吸収へと広がり始めました。まるで中国の御伽噺の孫悟空に出てくる、何でも吸い込む「魔法の瓢箪」のようです。

 

<汎用セットトップボックス導入計画>

 2010年初に米国連邦通信委員会(FCC)が「全米ブロードバンド計画」の中で提唱したのがALLVid(オールビデオ)と呼ばれる汎用セットトップボックスです。この汎用セットトップボックスは各CATV事業者、衛星テレビ事業者、IPTVなどをサービスするテレコム系事業者に共通のセットトップボックスの採用を促し、視聴者が有料テレビ契約先を変更してもセットトップボックスはそのまま使用できるようにすると言うものでした。(例えばCATV大手のコムキャストからテレコム系のベライゾンのFIOSTVに変更すると、これまではセットトップボックスを交換する必要がありました。これでは値段が高くなります。)

 

 

米国では約87%の世帯に有料テレビが導入されています。しかし各社がまちまちなセットトップボックスを導入して視聴者を囲い込んでいるため、CATVなどのサービスの値段が高止まりし、技術革新が遅れ、その結果、セットトップボックスの市場はモトローラとシスコの二社が90%以上を占めるなど寡占状況に置かれ、市場競争がありません。

 

 

このようなセットトップボックスの「ガラパゴス状況」に対して米国連邦通信委員会が2012年末を目処に有料テレビの契約を乗り換えても交換が不要な汎用セットトップボックスの導入を提案しています。(これはガラパゴス携帯とよばれた日本の携帯電話に似た状況です。)

 

ところが通常なら大した話に発展しないはずのこの提案が、折からの「スマートテレビの大変な盛り上がり」と連動して汎用セットトップボックスに賛成の意見書を提出したグーグル、ソニーやベストバイ、録画機メーカーのタイボ、三菱デジタルエレクトロニクスらが2011年2月に結成した「汎用セットトップボックス技術企業連合(AllVid Tech Company Alliance )」と大反対の意見書を提出した「米国ケーブル&テレコム協会(NCTA)」との間で米国連邦通信委員会に対する激しい提案合戦が始まり、米国連邦通信委員会と言う朝廷を巡る争い、グーグルテレビ賛成派(源氏)と反対派(有料テレビ連合=平家)の書簡戦争に発展しています。さながら第二のグーグルテレビ阻止事件の様相を呈しています。

 

 

この騒動は米国家電見本市(CES201)でスマートテレビが世界中で注目され、今後の米国内での普及が加速する状況のため、2011年の12月に突然、爆発的に火を噴きました。(それまでは燻っていた。)

 

例えば米国ケーブル&テレコム協会は以下のような汎用セットトップボックスとは関係ない意見を米国連邦通信委員会に出しており、有識者の顰蹙を買っています。これは明らかにグーグルテレビを意識しています。CATV業界はコードカットと言われる有料テレビの契約破棄の足音を汎用セットトップボックス採用の後ろに聞き始めています。

 

引用

 

ソニーとグーグルは米国連邦通信委員会を利用してCATV業界を明日の映像ビジネスの世界から追い出そうとしている!!

 

"Sony/Google are asking the Commission to lock MVPDs out of tomorrow's video marketplace, NCTA warns.

  

引用終わり

 

 

当然、双方とも本来、導入意図が全く別物だった「汎用セットトップボックスとスマートテレビは基本が同じものだ!!」と言うシナリオに立って非難合戦を繰り返しています。「汎用セットトップボックスとスマートテレビは基本が同じものだ!!」と言う見方に立てばスマートテレビが有料テレビをコードカット(契約破棄)する以前に一旦、その中に信号線を取り込んで吸収する方向に進むことになりそうです。実際、サムソンのスマートテレビは、コムキャストなどのセットトップス用のテレビアップスを開発すると発表しています。

日本でも地デジ後、CATVを含めたスマートテレビの議論が行政府でも始まるかもしれません。

 

★★CE Guys, Retailers Form AllVid Alliance



 ★ Cable Lobby Gripes About Google, AllVid

 

 

 

<専用ゲーム機のコードカット>

 

 これはパナソニックのスマートテレビであるビエラコネクトやフランスのスマートテレビ用セットトップボックスなどが提案している内容ですが、「強力なCPUを搭載したスマートテレビならば専用ゲーム機はもはや不要である。」と言った内容です。そのためパナソニックの新型スマートテレビには3Dのメガネだけではなくゲーム機のパドルまで同梱されています。またアップルテレビも早晩3Dゲームアップスを導入してアップストアで販売するという見方が出ています。逆にマイクロソフトは攻めの姿勢を示し始め「XBOX360をテレビに育てよう。」と言う姿勢を強く打ち出していると言われています。その為、危機感を強く持つプレーステーション3では早晩、グーグルテレビ用のアンドロイドOSを導入するのでは無いかという見方も出ています。

これらの動きはスマートテレビが専用ゲーム機を内部に吸収する動きであり、一種のコードカットと言えましょう。

★★テレビだけで本格3Dゲームが楽しめる? パナソニックブースでVIERA Connectのゲームを観てきた

 (パナソニックのビエラに同梱されているゲーム機のパドル)

  明らかに新型ビエラは専用ゲーム機キラー 

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 3Dビエラはスマートテレビによりゲーム機に早変わり!!

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 <出所:http://www.4gamer.net/games/038/G003884/20110112076/

パナソニックのビエラコネクトは専用ゲーム機不要、専用ゲーム機のコードカット、アバター風のSNSでテレビ視聴(CES2011動画)

  

 

 

<パソコン用私的録画や写真の吸収>

 私的録画や私的写真を楽しむのは従来、パソコンの役割でした。各社のスマートテレビのアップスを見れば判りますが、フリッカーやピカサなどのアップスと共に私的な録画や写真をテレビで物理的な知り合いと共有したり、家族で見る仕組みが強調されています。これも一種のパソコン用私的録画や写真のスマートテレビによる吸収と言えましょう。

 

<結論>

 何れにしてもテレビのデジタル移行の中で薄く、大きく、美しい画面は、21世紀には家族による共同視聴の為のリビングルームの劇場へと成長しており、2011724日の地デジ移行後には、スマートテレビの大波が我が国でもやってくると予測され始めています。現在、アップルテレビにはフジテレビしか見逃し放送を出さず、総じてグーグルテレビに全く非協力的と言われている国内地上派テレビ業界も、諸外国への遅れ(欧米、シンガポール、豪州、韓国ではスマートテレビは既にサービス開始している。)に気がつい政府が少しでもスマートテレビに前向きに動けば協力せざるを得なくなるでしょう。

スマートテレビはインターネット、有料テレビ、ゲーム機、手元の私的動画などあらゆる映像(それに加えて無く新聞も雑誌も音楽)を吸収し始め、汎用セットトップボックス化の道を歩んでおり、保守的な国内地上波がスマートテレビに前向きにならず、広告費の減少にスライドした、質の落ちる番組を作り続けたと仮定したならば、居間の美しいテレビ劇場から従来のテレビ番組が消えるだけのことでしょう。これが日本流のスマートテレビのあり方ならば、それでも構いませんが。

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