人材育成における各ステークホルダー(人事担当者・受講者・マネージャー・講師)の立場から、現在の企業教育での問題を提起し、解決策を処方していきます。特に「KKD(経験・勘・度胸)」で、講師の人や企業研修に疑問を持っている人事担当者・現場マネージャーの人必読です。

研修中に講師は何を考えているのか?

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「講師の頭の中」

 受講者の方から、たまに次のような質問が上がってくる。
「講師の方は実施中にどんなことを考えているのですか?」
というような質問だ。このような質問は個人的にはすごく嬉しい。では、実際どんなことを考えているのか?
頭の中の思考中枢を分割して説明すると、一つは「話す」「聴く」「場をつくる」に集約され、もう一方は、「全体的な状況を見る」というような構成だ。後者はメタ認知という思考法である。2つの思考を行ったり来たりしているということが答えだ。では、なぜ、2つの思考を行ったり来たりしているのかというと、「全体的な状況を見る」という観点で説明したい。

「ARCSモデル」

 研修の定義は、「受講者の自発的な学習をサポート全般」である。(※「学習」と「教育」の定義は拙ブログの『なぜ、研修批判がおこるのか』を参照)。
なので、研修で身につけてもらった知識・スキル・態度を現場でいかに活かしてもらうかということがポイントなのである。そのための方略として、全体的な状況を見て適切な動機付けが重要になってくるのだ。研修における動機付けを分類したものがARCSモデルである。このARCSモデルとは、それぞれ要素の頭文字をとったものである。それでは、詳細に内容をみていこう。

  • Attention(注意)
    何はともあれ研修では、「面白そうだな」と期待感をもってもらわなければならない。そのため、研修全体の構造を最初に説明したり、マンネリ感を避けたり(ブレークタイムやゲームを導入)、情報のイラストに工夫を凝らしたりすることである。
  • Relevance(関連性)
    キーワードは「目的指向性」「動機との一致」「親しみやすさ」などがあげらる。研修で取り扱う内容を抽象化された理論を無味乾燥に扱うのではなく、受講者の置かれている近い状況に、ケーススタディやロールプレイングを作り上げる(これは事前準備のヒアリングや調査が鍵をにぎる)。また、研修中に質問を投げかけ、どのようなことに興味をもっているのかということを引き出して、即興的に場を設定していくことも講師には求められる。
  • Confidence(自信)
    人は自信をつけると一般的に自己効力感(※自分はやればできるんだという認知)が高まり、自発的な行動が強化される。行動主義心理学では、[刺激⇒反応⇒フィードバック」の流れを重ねていくと行動が強化されるといわれている。このため、研修での学習経験によって学習者の有能感を支持したり高めたりするために、成功機会が得るような課題を設定したり、承認や共感といった手法も重要になる。
  • Satisfaction(満足感)
    人が満足を得る要素として考えられるのが、「否定されない」「自分の考えに理解が得られる」「公平感」などである。これらを根底に考えると、講師はしっかりと受講者からの発言や発問に対しては真摯に受け止められなければならない。そして、受講者のタイプは様々である。講師自身が絡みやすいいタイプの人だけに絡むのではなく、苦手なタイプでも積極的に絡んでいかなければならない。

 私が研修中に状況を見ながら考えている具体的なことは、ARCSモデルに照らし合わせると以下のようになる。

  • Attention(注意)
    ―受講者の関心を惹くために何ができるだろうか?
    ―どのようにしたら自発的な行動や態度を引き出せるだろうか?
    ―どのようしたら受講者の注意を維持できるのだろうか?
  • Relevance(関連性)
    ―どのようにしたら受講者のニーズに応えることができるだろうか?
    ―どのようにしたら受講者の経験と研修内容を結びつけることができるだろうか?
  • Confidence(自信)
    ―どのようしたら受講者が課題解決への期待感を持てるように支援できるだろうか?
    ―受講者はどのように有能感を高めてくれるのだろうか?
  • Satisfaction(満足感)
    ―どのようしたら受講者の成功や期待感を強化できるだろうか?
    ―研修に否定的な感情をもって参加している人に対して、どのようしたら肯定的な考えに転換してくれるだろうか?

 上記のような内容を研修運営の最中に考えて実施しているのである。―話をしたり、受講者の発言を聴いたり、ワークの進捗具合を見ながら―

「研修実施中に何を考えているのか?」

 講師が研修実施中に何を考えているのか?という答えはお解りになったのではないかと思う。
それは、「受講者の適切な動機付け」に関することなのである。
 ARCSモデルは事前準備としてカリキュラム作成時にも念頭に置き、しっかりとシステマティックにカリキュラムを作成して研修に臨むのであるが、準備段階で予定していたように事が進むわけではない。現場は一時一時状況が変化している。そのため、いくら準備段階で調査・ヒアリング、分析を行っていても現場は違うのだ。そのため、ARCSモデルをベースにして、直面した状況に合った適切な動機付けの方法を常に模索しているのである。(このような行為を専門的用語で『省察的実践』という)


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Training Office 代表 宮﨑 照行

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