人材育成における各ステークホルダー(人事担当者・受講者・マネージャー・講師)の立場から、現在の企業教育での問題を提起し、解決策を処方していきます。特に「KKD(経験・勘・度胸)」で、講師の人や企業研修に疑問を持っている人事担当者・現場マネージャーの人必読です。

ブラック企業発生のメカニズムと防止方法~組織論の観点から~

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 ブラック企業に関しては、様々な分析がされ解決策が模索されている。また、政府もブラック企業対策に乗り出し、ブラック企業に該当すると思われる企業を公表すると発表している。しかし、ブラック企業問題は、今だネット上を騒がせているし解決する気配さえない。

 では、なぜブラック企業問題は解決されないかを考えてみたいと思う。

 利益最大化活動においては4つの要素(ヒト・モノ・カネ・情報)をいかに効率よく組み合わせて、最大限のアウトプットを生み出すことが期待される。4つの要素のうち、モノ・カネ・情報については物質的な性質しかないが、ヒトは物質的な性質だけでなく精神的な性質も大きく占めていることが特徴的である。ここで、ヒトにおける物資的な性質とは、能力など生産要素に関係するものである。一方、精神的な性質とは、感情や意識など人間の内面に関係するものである。ヒトの性質は物質的なものと精神的なものとが互いに大きく影響を与え合っているということだ。これを分かりやすく称えると、以下の通りである。

  • やる気がある⇒能動的行動をとる⇒成果が上がる・能力が高まる⇒さらにやる気があがる
  • 落ち込んでいる⇒受動的な行動をとる⇒成果が下がる・能力は伸びない⇒さらにやる気が落ちる

 一般に組織化される際に採用されている考え方に、フレドリック・ウインズロウ・テイラーが提唱した科学的管理法がある。この考え方は、上記に説明したような、効果的な生産要素の組み合わせを模索し、それに合わせた組織を創造することにある。ここにおいて人間の精神的性質は無視される。しかし、テイラーが科学的管理法を提唱した目的は、生産性を高めることで従業員の報酬を上げることや、業務の見える化を進めることで経営者層や従業員層に不必要な対立を避ける事にあった。あくまでも人間の精神性を無視し機械的な生産要素として置き換えることは、あくまでも手段の一つにすぎなかった。だが、経営者がスポットを当てるのは、目的の方ではなく手段の方であった。

 もし、ヒトの精神的性質を排除し物質的性質のみを考え組織化を行うと、官僚的/ピラミッド的価値観(D.マクレガーの言うX理論的マネジメント方式)に帰結する。官僚的/ピラミッド的価値観というのは、権限こそ経営統制の中心的・不可欠の手段とするということである。つまり、上下関係を明確しに有無をいわせない指揮命令権を上層部だけに与え、マネジメント方式は厳しく管理することが優先される。このような官僚的/ピラミッド的価値観でマネジメントを行うとどのような問題が起こるかということを、C.アージリスは「マチュリティ(成熟度)理論」によって説明している。

マチュリティ(成熟度)理論
C.アージリスによれば、人間の成長過程に7項目の人格上の変化があると仮定した。

未成熟          ⇒      成熟
受身的                  能動的
依存的                  独立的
限られた行動              いろいろな行動
不安定な浅い感心           強く深い感心
短期的な視点              長期的視点(過去と未来)
従属的姿勢               対等または上位の姿勢
自己認識の欠如            自己認識と自己統御

人間は年齢や経験を積むことにより、成熟の方法へ移行していくのだが、C.アージリスは、人々が組織へ入ると、組織管理のあり方(官僚的/ピラミッド的価値観)によって成熟が制約されてしまうのだと、主張している。つまり、組織では、人々は自分をめぐる職場の状況に最小限の影響力しか行使できず、受身で依存的で、かつ服従するように期待される。
 ブラック企業問題において、よく耳にするのが「そんな会社辞めればいいじゃん」というフレーズだが、未成熟状態だと依存的で限られた行動しかとらないので、自己効力感(※自己効力感とは行動に対する自信)が低くなり、転職活動に自信もなく会社にしがみつくしか選択肢がないと考えてしまう。しかし、ヒトにはそのような状況にも優位にたっておきたいという意識が働くので、利己的な自己保身という選択をしてしまう。その結果、不正やインチキ、不道徳行為が当たり前のような感覚に陥ってしまう。それが従業員個々の行動様式として染み付いていくことによって企業文化として根付いていく。

そもそも、テーラーが提唱した科学的管理法の手段の部分しか見ないで組織化・組織運営を行うと、必然的にブラック企業化が避けられないものである。そうならないためにも、人間的/民主的価値観に基づいたマネジメント方式(D.マクレガーのいうY理論方式)を効果が見えてくるのに時間はかかるかもしれないが、導入していくことが大切である。経営者やリーダーにはヒトの成熟化も経営目的達成の重要な要素として戦略に組み込み事業計画を立てて組織運営をしていくことがブラック企業化を避ける一番の処方箋ではなかろうか?結局は、ブラック企業と世間一般に認定されることによるコストは計り知れないからだ。


〈参考文献〉

  • 経営学入門(日本経済新聞社) 伊丹敬之・加護野忠男 著
  • 新版 行動科学の展開 (生産性出版) 
       P・ハーシィ K・Hブランチャード D・Eジョンソン 著
  • 新版 企業の人間的側面(産業能率出版部) D・マクレガー 著



Comment(1)

コメント

記事を拝見しました。
ブラック企業を「個々人の成長よりも企業としての効率を重視した状態」と定義付けていると理解しました。
この認識は、私個人の考えとも乖離しておらず、共感出来る内容です。

私は従業員の立場として3社のブラック企業で働いてきましたが、遂に今3社目で裁判になっています。
文中にも有る「そんな会社辞めればいいじゃん」は今でも言われますし、実際私も今まではそうしてきましたが、今回は引き下がれず、闘うという選択肢を取っています。

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