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新しい組織に溶け込む技術 ──好意の心理

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私たちITエンジニアは新しいプロジェクトに参画するたび、開発現場に新人として配属される。私もこの4月から新しい現場に配属になった。45歳のベテランであるが、その現場においては、右も左も分からない"新人"だ。

新しく配属された現場ではわからないことばかりだ。会社の入館のしかた、勤務時間、ランチが美味しいお店、銀行ATMの場所、会議室の予約のしかた、進捗報告書の書き方、チームメンバーの名前と座席、インストール可能なソフトウェア、ファイルが置いてあるフォルダの場所など。

これらの情報を得るためには、先にプロジェクトに参画している先輩たちから教わらなければならない。しかし、先輩たちは忙しいので親切丁寧に教えてくれるとは限らない。忙しい中、助けてもらうためには相手に好かれなければならない。好かれるためには好印象を与えるテクニックが必要だ。

立正大学の齊藤勇教授によると、対人行動(人に対して行う振る舞い)の決め手は対人感情(人に対して持つ感情)にあるそうだ。相手に対して好意感情(「スキ!」)を持っていると親和的・援助的行動をするのだが、嫌悪感情(「キライ!」)を持っていると攻撃的・拒否的行動をするというのだ。好きな人には親切、嫌いな人には不親切という、自明な法則が存在するのだ。

したがって、もし新しく配属されたプロジェクトでまわりからサポートを受けたいのであれば、好意を持たれる振る舞いをしなければならない。好意を持たれるテクニックとして以下について紹介しよう。

  1. 外見
  2. 性格
  3. 近接性
  4. 自己開示
  5. 類似性
  6. 承認
  7. 高揚感

詳しい内容は以下の通り。

1.外見

ウォルスターらの実験によると、外見の良い人とそうでない人では好感の持たれ方に違いがあることがわかっている。いわゆる美男美女の方が、そうでない人よりも好かれるようだ。なぜ見た目の良い人が好かれるかというと、身体的に良い人は他の特性も良いだろうという先入観が働くためだといわれている。また外見の良い人と一緒にいることで、自分の評価も上げたいという心理が働くともいわれている。

とはいえ、外見は生まれ持って身につく要素が大きいため、努力で改善することは難しい。しかし、外見というのは生まれ持ったものだけでなく、後天的に身につける要素というのも存在する。その要素とは、笑顔や清潔感といったものだ。ムスッとした顔よりも、さわやかな笑顔の方が好感度が高い。そしてシワのないワイシャツ、オシャレなカバン、磨かれているシューズなどを心がければ良い印象を与えることができる。無精ひげ、ねぐせ、歯についた食べかす、フケ、目ヤニなどは印象を悪くするから要注意だ。

2.性格

アンダーソンの実験によると、好まれる性格と好まれない性格というものが明らかになっていて、下記の通りとなっている。

好まれる性格 誠実な人、正直な人、理解ある人、忠実な人、実直な人、信用できる人、知的な人、頼りになる人、心の広い人、思慮深い人
好まれない性格 うそつき、いかさま師、下品な人、残虐な人、正直でない人、信用できない人、不快な人、意地悪な人、卑劣な人、だます人

私が以前参画したプロジェクトでは、となりにしょっちゅうゲップする人がいて非常に不愉快だったことがあった。仕事面では問題ないのに、下品なイメージによってその人の評価も良くなかったように記憶している。

また、齊藤勇教授が日本人大学生に行った実験によると、好まれる性格の上位3つは、

  1. 思いやりのある人
  2. 誠実な人
  3. やさしい人

となっていた。また、好まれない性格の上位3つは、

  1. ずるい人
  2. 人をさげすむ人
  3. 卑劣な人

となっている。

好まれる性格と印象づけるためには、職場での振る舞いが大切だ。あいさつをする、会議でメモをとる、間違ったら謝る、嘘をつかない、遅刻をしないといったことが重要だ。また、ITエンジニアの振る舞いとしては、作成資料に誤字がない(少ない)、進捗報告を欠かさない、手が空いたら他のタスクを引き受けるといった振る舞いからその人の印象が形成されるだろう。

以上のように、日頃の仕事ぶりから性格を判断されるので、常に自分の一挙手一投足に細心の注意を払うようにしよう。良い印象は時間をかけて作られるが、悪い印象は一瞬で作られてしまうので要注意だ。

3.近接性

フェスティンガーの実験によると、学生寮に住む学生がまず仲良くなるのは隣の部屋の学生で、物理的な距離が近い人と仲良くなる傾向があった。つまり人が集まったときはまず近くの人と仲良くなることがわかっている。

開発現場でも座席が隣、あるいは近くの席の人が物理的に近い人である。朝出社したらまわりの人たちのあいさつを欠かさないように気をつけよう。まずは近くの人から人間関係を築くのだ。そして少しずつ外へ範囲を広げていくようにする。

ただし、時間の経過とともに物理的な距離よりも、他の要因によって人間関係が築かれていくこともわかっている。物理的な距離による関係は長続きしないことを覚えておこう。プロジェクト参画当初のように右も左も分からない状況では、物理的距離による近接性を利用するのだ。

近接性と似た概念として単純接触効果ザイアンスの法則)というものもある。何度も顔を合わせることで相手に好意を持ってもらえるというものだ。営業マンのような仕事であれば、頻繁に顔を見せる努力が必要になるかもしれない。しかし、私たちITエンジニアはお客さんと机を並べて仕事をすることが多いため、接触頻度についてはそれほど意識しなくても大丈夫だ。

4.自己開示

ジュラードの実験によると、自己開示をすると相手に好意を持ってもらえることがわかっている。隠し事をせず、心を開く相手には親近感を覚えることがその理由だ。また自己開示は相手の自己開示を引き出すこともわかっている。相手が胸の内を開けば、安心して自分の胸の内をさらけ出す効果があるのだ。相手にされると自分も同じように返したくなる返報性の心理が働くのだろう。

自己開示については以前の記事「新しい職場で親密な人間関係をつくる ──自己開示」に詳しく書いているのでそちらを参照してほしい。

5.類似性

バーンとネルソンの実験によると、類似度と好意度には相関関係があることがわかっている。例えば、出身地、年齢、家族構成などが似ていたり、好きなチーム、アーティスト、娯楽、テレビ番組などが一致していたり、政治や経済問題に対する考え方や価値観が似ていたりすると、その相手とは親近感を覚えるようだ。

これは自分と相手の一致点を見つけることで、自分の存在や考え方が支持されたり、承認されているという満足感が得られるためといわれている。

私が講師を務める研修でも、アイスブレイクとして「共通点探し」というゲームをやることがある。ペアになった人との共通点を制限時間以内にいくつ見つけることができるかというゲームなのだが、相手との共通点を見つけることで、ゲーム後にはペアの心の距離感がグッと縮まるのがわかる。「ゲームを終了してください」と講師がゲームの終了を指示しているにもかかわらず、共通点に関する話で盛り上がってしまい、ゲームがなかなか終わらない状態になってしまうほどだ。

新しいプロジェクトに参画したら、同じチームのメンバーに出身地、テレビ番組、好きな食べ物などを質問して、自分との共通点を引き出そう。開発経験、得意とする技術、持っている資格、どれだけひどいプロジェクトにいたかなどを見つけてみよう。共通するものが見つかれば、その話題で盛り上がり相手との心の距離を縮めることができるはずだ。

6.承認

アロンソンとリンダーの実験によると、好意には互恵性があることが確認されている。人からほめられたり評価されたりすると、その相手に対して好意を持つようだ。人は自分のことをネガティブに評価する人よりも、自尊心を満たしてくれる人の方が好きになるのは当然だ。

好意を示すためには相手の良いところを見つけるようにしよう。見つけた長所をそのまま言葉にすればよい。ことさら大げさにほめたり、おだてたりする必要はない。下心が見えると相手は気持ちが引いてしまうから要注意だ。ほめるというのは相手のよい点を、ありのままに言葉で伝えることだ。

「Aさんの設計書はわかりやすいから、すごーい。尊敬しますよ」なんてことは言わなくていい。「Aさんの設計書はわかりやすい」でよいのだ。「朝、早く出社する」「メールの返信が早い」「ソースコードのコメントがわかりやすい」とありのままを伝えればいい。特別なスキルは必要ない。

7.高揚感

ダットンとアロンの有名な「吊り橋実験」によると、ドキドキしている状態で知り合った相手に好意を持つことがわかっている。感情の高まりを一緒に共有した相手とは心の距離が縮まり、好意を持つようだ。

システム開発の現場で一緒に仕事をした仲間と再会すると、かつてのプロジェクトの思い出話に花が咲くことがある。平坦なプロジェクトよりも、炎上したプロジェクトで一緒だった仲間の方が、親しくなる傾向になると感じている。理不尽な仕事を押しつけられたり、残業が多くてつらい思いをさせられたり、「とてもつらい」という感情を共有した体験が親近感を生み出しているのではなかろうか。

自ら率先して炎上現場に入りたい人はいないだろう。しかし、もしそのような現場に入ったとしても、その仕事をやり抜けた後には、一緒に仕事した仲間とは強い絆ができるというメリットがあるとおぼえておこう。つらい感情を共有したことでより深い関係が築けるのだ。仮に新しく参画したプロジェクトのスケジュールがタイトであったとしても、そのマイナス感情でさえチームのみんなと共有して一体感を作り出すきっかけにしてしまおう。

もちろん高揚感はポジティブな感情でも大丈夫だ。例えば、システムが無事リリースされたとか、システムがお客さんから高く評価されたといったものでもよい。一緒に感情が湧き上がる状態を共有することが大切なのだ。

以上、7つのテクニックで新しいメンバーとの距離を縮めてみよう。そうすれば新しいプロジェクトにもすぐ溶け込むことができるはずだ。

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