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これがマイクロカプセルか!?その衝撃的な画像に、研究者のツイートがバズる!~日用品公害・香害(n)~

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未曽有の公害が進行中だ。このままでは四大公害病の被害を超える。だが、気付いているひとは、一握り。
知らせたい。伝わらない。可視化しなければ、もはや地球はまるごと汚染。
この問題に、ひとりの研究者が救いの手を伸べた。早稲田大学、大河内博教授である。アース・ドクターの異名をとる、大気中マイクロプラスチック研究の第一人者だ。
2019年から始動した、環境中マイクロカプセルの追跡。
先日、ついに、そのカタチが捉えられた。

室内大気と洗濯排水、両方から見つかったマイクロカプセル

洗濯ものを叩いた時に放出されるマイクロカプセル。その鮮明な画像。
「早稲田大学・大河内研究室」のツイートがバズっている。
洗濯排水からも同じものが見つかったという。それが何か、今後調べていくとのこと。
1月24日早朝につぶやかれたスレッド1つ目のツイートの表示件数は、55万件。本稿執筆時点で、3000件を超えるリツイート、250件の引用リツイート、8300件「いいね!」が付いている。今このときも、反響は拡がり続けている。
これまで、物品に付着したマイクロカプセルは、数名の民間人によって撮影されてきた。だが、研究者による、大気と水中の両方から捉えられた画像は、存在しない。日本初、いや、世界初ではないか。
ぜひとも、一連のスレを見てほしい。

「早稲田大学・大河内研究室」のツイート

洗濯排水中の子マイクロカプセルとおぼしき物体。拡大画像の小さな物質のサイズは、0.45μmだ。これがいかに小さいか。
たとえば、花粉のサイズは、約10~30μm(マイクロメートル、1mm=1000μm)。健康被害が懸念されるPM2.5は、2.5µm以下の微小粒子状物質だ。
マイクロカプセルのサイズは、それよりも小さい。おおよそ1μm~30μm。
0.45μmは、450nm。砕けた結果、ナノサイズ(nm。ナノメートル、1μm=1000nm)の物質が流出していることになる。

ナノサイズのプラスチックがもたらすリスク

マイクロカプセルは、基本的に樹脂製だ。リスクを低く見積もったとしても、マイクロプラスチック(microplastics、略称:MPs)と同じかそれ以上の問題が発生すると考えられる。
マイクロプラスチックは、直径5mm以下のプラスチック片の総称だ。砕けてマイクロになったプラスチックである。
これに対し、日用品に使われているマイクロカプセルは、最初からマイクロなプラスチックだ。人体にも、動植物にも、取り込まれやすいだけに、そのリスクは未知数だ。

マイクロプラスチックの環境中での動態については、大河内教授のインタビュー記事の一読をおすすめする。
WASEDA ONLUNBE「オピニオン」大河内 博/早稲田大学理工学術院・創造理工学部教授「地球表層を巡るプラスチックーアースドクターの診断ー」(2020年7月27日)

もちろん、人体への影響は避けられない。
2018年の時点で、すでに、深刻な問題が浮上している。
NATIONAL GEOGRAPHIC「人体にマイクロプラスチック、初の報告 調べた全員の糞便に存在、日本人からも、学会発表(2018年10月24日)」
3ページ目、食品に落下するプラスチック繊維と、貝類に含まれるマイクロプラスチックを比較した結果が述べられている。香害を感知するひとなら、日々実感していることだろう。貝類より、空気中の繊維のほうが、ハイリスクだというのだ。

人体だけなら排出できるのではないか?などと気楽に考えてはいけない。
われわれが生きていくには、空気と水と食糧が必要ではないか!

食糧生産には、ハチによる受粉が欠かせない。そのハチの身体に、マイクロプラスチックが付着して蓄積するという。これもNATIONAL GEOGRAPHICから。
ハチが空気中のマイクロプラスチックを蓄積、初の実証 ハチの体に付着した微粒子の15%はマイクロプラスチック(2021年05月27日)」

さらに、植物からも発見されている。
JSTのScience POrtal Chinaには、「畑で育つ野菜からもマイクロプラスチック粒子を検出」とある。
「科学技術トピック 第167号、2020年8月26日 張 曄(科技日報記者)」
風化し、マイクロメートルサイズになったプラスチック粒子を、根から吸い上げる可能性があるのだ。それは、食物連鎖に組み込まれ、人体に入り込む。
土壌も汚染される。土中の生物、たとえばミミズにも影響は及ぶだろう。豊かだった土が痩せていく。

問題は、マイクロプラスチックだけではない。マイクロプラスチックに付着した化学物質も大問題だ。内分泌かく乱採用は、人類の存続に影を落とす。
我が国では少子化が叫ばれている。晩婚化、ライフスタイルの変化による女性の負担増、社会的イベントによるストレス、経済問題など、原因となりうる要素は増えている。そのうえに、内分泌かく乱化学物質の問題が追加された。経済的に豊かでも、優れたシッターを雇用できても、決して解決することはない。それより手前で、問題が生じているからだ。

環境省の、内分泌かく乱作用に関するホームページ を参照してほしい。
内分泌かく乱作用とは?」の3ページ目に、「環境省では、女性ホルモン(エストロジェン)や、合成女性ホルモンがもつ"内分泌かく乱作用"を、メダカを使って確かめることができる試験法を開発」したとある。その方法で調べたところ、化学品 (4-ノニルフェノール、4-t-オクチルフェノール、ビスフェノールA)が、内分泌かく乱作用をもつと考えられたという。また、ヒトに与える影響について、DES (ジエチルスチルベストロール)の例が挙げられている。
日々新たな化学物質が登場している。マイクロプラスチックやマイクロカプセルが吸着した物質は、容易に人体に入り込む。

短期間で増えた化学物質、適応の限界

2017年~2018年を境に、マイクロカプセル香害は強まっている。その後、コロナ禍が始まり、抗菌剤を大量に配合した日用品が相次いで発売された。各メーカーは開発の手を緩めない。一部の消費者の購買意欲を満たすべく、新製品を市場に投入する。
環境中の化学物質は、すでにヒトの処理能力を超えているにもかかわらず。
深海に棲む生物でさえ、硫化水素やメタンを活用する進化を、数年で遂げたわけではない。
ところが、われわれは、数年で様変わりした空気への適応を迫られている。
適応できない個体が増えれば容易に傾く、脆弱なシステムを操りながら、この複雑な構造の社会を営んでいかねばならない。

汚染された環境に暮らすがゆえに、化学物質過敏症の発症者が増えている。その症状は、「シック・エアー症候群」といった方がよいものだ。病んでいるのはヒトではない。空気の方だ。「化学物質過敏症」というよりもむしろ、「ナノテク公害病」であり、「第五の公害病」であろう。
ただし、この日用品由来の公害は、「第五の公害」とは言い難い。それどころではないのだ。四大公害の延長線上にあるものではなく、人類が初めて経験する大公害だ。 これまでの公害とは、次の3点が、あきらかに異なっている。
産業公害ではく、一般消費財公害であること。回収技術のない、ナノパーティクルによる汚染であること、地球規模の広域公害であること。この意味に、この恐ろしさに、気付いてほしい。

汚染を止めよう、消費行動を見直そう

病気は、医師の力だけでは、治せない。患者の自助の精神も必要だ。
アース・ドクターの力だけに頼るのはよそう。われわれは、自助の精神をもって、この病んだ地球を癒さねばなるまい。すくなくとも、10年前の空気を取り戻そうではないか。

プラスチック製品をリサイクルすること。削減すること。それだけでは、「最初からマイクロな」プラスチック問題は、水面下で進行してしまう。
最善の解決策は、今すぐ消費行動を変えることだ。マイクロカプセル入りの製品を使わない。ストックは適切に処理する。
ひとりひとりの日常の行動が、地球規模の汚染を食い止める。


早稲田大学理工学術院 創造理工学部 環境資源工学科 人間・環境系
大気・水圏環境科学研究室ウェブサイト
研究論文・書籍・講演・発表のリスト

認定PO法人富士山測候所を活用する会
大河内博教授が副理事長を務めている。
先日届いた会報 Vol17「芙蓉の新風」には、大河内教授の「一般財団法人 新技術振興渡辺記念会 2022年度受託事業」として「早稲田大学・富士山環境研究センター 大河内博宏・廣瀬勝己、両先生の研究が紹介されている。
測候所を支援したい方は、同法人のウェブサイトの方から寄付できるので、考えてみられたし。進行中の研究は、twitterで確認できる。
認定NPO法人富士山測候所を活用する会 公式twitter

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