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キャッシュレス化、半強制社会。将来払うツケとは? ~日用品公害・香害(n)~

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紙幣と硬貨が非常事態だ。ニオイを放つ化学物質が付着している。生体リスクのある物質だ。
ATMで引き出した現金も、スーパーやコンビニでの釣り銭も。
都会や地方都市の市街地では、無臭の貨幣を探すほうが難しいのではないか。
ニオイから生体リスクを察知したひとたちは、財布を諦め始めている。使い捨てのポリ袋やジップロックで持ち運ぶ。
財布の中の現金で支払うという、あたりまえの社会行動が制限されている。

読者の皆さんは、この状況をご存知だろうか。それとも、気付いていないだろうか。

気付いていないとすれば、原因は次の2つである。

ひとつは、地域差だ。
山間部やへき地など、無臭の貨幣が流通している地域はある。
におう貨幣を手にしたことがなければ、この異常事態に気付くことはない。

もうひとつは、嗅覚の精度だ。
ニオイを感知できなければ、気付けない。 原因は、いくつか考えられる。嗅覚弱者の可能性。自身が「におう製品」の愛用者の可能性。貨幣を手にした場所の空気が、貨幣以上にニオイを放っている可能性、などである。

気付いていないひとたちに向けて、もうすこし詳しく説明しよう。

それは、どのようなニオイなのか?

筆者の手にした貨幣の場合、多いのはポマード臭だ。最近では、ミント臭に変わりつつある。どちらも、柔軟剤由来とおもわれる。そのうえに、合成洗剤由来とおぼしき抗菌臭が重なっている。
居住地域によってニオイは異なる。スーパーやドラッグストアの品ぞろえに左右される。

どの程度の強さでにおうのか?

二重のポリ袋に、紙幣を5枚と硬貨を10枚入れて放置する。1週間後、袋の口を数センチ開いた瞬間に、息をとめるほどの激臭がたちのぼる。手にした袋と鼻の距離は、約30cm。それほどの強さだ。

付着した物質は、除去できないのか?

硬貨なら、石けんで洗えば、かなり除去できる。ところが、紙幣はといえば、アルコール除菌ウェッティで繰り返し清拭しても、半減がいいところだ。(除菌ウェッティは、毒を持って毒を制すであって、それ自体にリスクがあり、使えないひともいる)

におう物質は、貨幣に付着したままなのか?

におう物質の付着した貨幣を財布に入れると、財布の中に2次移香する。カード類に3次移香する可能性も考えられる。
貨幣を触った手には、もちろん2次移香する。

紙幣のニオイは、気のせいではないのか?

気のせいではない。移香は、疑いようのない事実だ。
高残香性柔軟剤や抗菌系合成洗剤を使って洗濯をする。それらの成分が、衣類に残留する。着衣から放たれた化学物質は空間を漂う。その空間中にあるヒトやモノに衝突して付着する。

事実、「ハウスダストと柔軟剤から共通したにおい物質が検出」されている。「香料がマイクロカプセル化されたことでハウスダストに比較的長期間残留する可能性」が示唆されているのだ。
におい・かおり環境学会誌「におい嗅ぎガスクロマトグラフィーを用いたハウスダスト中マイクロカプセル化香料の検索」を参照されたい。

紙類は、移香しやすい素材のひとつだ。食品業界地方自治体は、輸送用段ボールや紙パッケージへの移香を、課題として認識している。

紙類の中でも、紙幣は、とくに移香しやすい。紙自体、多孔質材料であって、非常に多くの細孔が空いている。香料マイクロカプセルは、PM2.5サイズ、砕ければナノサイズだ。この孔に入り込んで付着する可能性が考えられる。
そのうえ、紙幣の表面には細かい凹凸がある。偽造防止目的の、凹版印刷によるものだ。凹の部分にインクが入る。国立印刷局によれば、「2004年11月1日に発行されたE券」には、「深凹版印刷」が用いられているという。
このような、特殊な表面のために、付着しやすいと考えられる。

生体リスクとは、どのようなものか?

それらの化学物質を吸い続けることによって、喘息・アレルギー・鼻炎・皮疹・頭痛などに見舞われるおそれがある。さらに、化学物質過敏症を発症するというリスクがある。

解決方法はないのか?

3つの方法が考えられる。
原因製品の販売規制。ユーザーの使用中止。キャッシュレス化だ。
ところが、規制は遅々として進まない。パワーユーザーは、健康被害者の訴えに耳を貸さない。健康を維持するには、キャッシュレスに移行せざるをえない。
移香は、キャッシュレス社会を強力に後押しする。良い意味ではなく、悪い意味でだ。

なお、それらの化学物質を短時間で完全に分解する技術は、まだ存在しない。卓上型脱臭機が切望されるが、開発は不可能に近い。

感知できるひとは、リスクを訴えるべきではないか?

ニオイを感知したひとたちは、訴えている。自治体に、職場に、学校に、近隣に。チラシを作り、資料を揃え、何度も足を運んで。企業公式やサポート窓口に直接訴えるひとたちもいる。訴えているのは、ニオイそのものではない。ニオイを放つ化学物質が及ぼす影響だ。生体リスクと環境リスクを訴えている。
twitter内を「紙幣 移香」で検索して「最新」で並び替えてみれば一目瞭然。ツイート件数は増える一方だ。

ところが、リスクを訴えるツイートに対して、しばしば、人間性を揶揄するようなリプが付く。感知するひとたちは、誤解を解こうと試みる。感覚の違いが顕わになる。リプの応酬に疲れ果て、訴えることを躊躇するようになる。

ニオイを感知するか否かが、ひとびとを、分断し始めている。

この状況を放置すると、どうなるだろうか?

キャッシュレス化が加速するだけではない。紙幣以外の紙類への移香が重積していく。
図書館の書籍、貴重な古書、紙を使用した美術品や文化財。移香しようものなら、除去は困難だ。

貨幣と異なり、移香によって、それらの文化的な価値は低下する。毀損はツケとなる。

損害があきらかになったとき、メーカーは矢面に立たされるだろう。とはいえ、どのメーカーのどの製品なのか、原因の特定は困難だ。さまざまな要素が絡み合う。したがって、賠償問題にまで発展することはないと考えられる。だが、消費者からの信頼は......?

企業活動において、もっとも重要な要素である「企業への、信頼」。
それが失われることになりはしないか。

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