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コミュニケーションにおける共有知識モデルについて、デザインの観点から考えていきます

推論で斬新な仮説をたてる

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説明の手法については、「演繹(Deduction)」、「帰納(Induction)」、「推論(Abduction)」に分類した「論証の三分法*1」があります。チャールズ・パースは、これらの方法論について、「アブダクション(推論)は、説明的仮説を形成する過程であり、それは新しい概念を導く唯一の論理的操作である。何故なら、帰納はひとつの値を決めるだけであり、また演繹は全くの仮説の当然の帰結を生むだけであるからである。」さらに「アブダクションは間違う可能性があるのに対して、帰納は完全に間違うのは困難だ。」と述べ、それぞれの手法の違いを述べています。

コナン・ドイルの描いたシャーロック・ホームズは、このアブダクションにより難解な事件を解決していきます*2。いろいろな事象を、正確な観察によって、瞬間的にそして全体的にこころに浮かばせ、絶妙な推論で、解決のヒントを「みつけだす」わけですね。斬新なアイデアは、世界で同時に5人の人が思いつく、といわれていますが、新たな切り口での仮説を「みつける(表出化)」ということは、時として正確性を欠くことがあるものの、その方向性については概ね間違いない、ということと理解しています。

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「アブダクション」の例題を少し考えてみました。左図の例は、「仕事がはかどる日がある」という事実、およびそれが「晴れた日に多く発生するようだ」という推測から、仮説として「晴れた日は仕事がはかどる」を導き出しているものです*3。「晴れた日は仕事がはかどる」が、晴れていない日にも「仕事がはかどる」時があることから、「仕事がはかどるのは晴れているから」という逆説は、成り立ちませんね。

パースは「アブダクションは心が事物をある方向で見た結果、事物がおのずから結びあって、調和と統一の感覚を持つことを伴う」とも述べていることから、「仕事のはかどり」と「晴れた日」との関連性を「気がついた」時に、「アブダクション」が起こったと考えることもできます。

人間がよりよい思考をするためには、多くの事象に好奇心や興味をもち「洞察」を重ねた上、「アブダクション」を起こさせることが必要になってきます。アブダクションは、人間の潜在意識を基盤とした能力開発に寄与するだけでなく、新たな発想力で物事を捉える「構想力」の育成にもつながる重要な要素であるように思います。

*1: 「パース<人と思想>」岡田雅勝著(清水書院146)1998年
*2: 「シャーロック・ホームズの記号論」トマス・シービオク&ジーン・ユミカー=シービオク/富山太佳夫訳(岩波書店)1981年
*3: 「α波活用時間術」大島章嘉(日新報道)1999年

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