オルタナティブ・ブログ > 清兵衛のものはいいよう/考えよう >

コミュニケーションにおける共有知識モデルについて、デザインの観点から考えていきます

帰納的説明はパワポで

»

説明の手法については、「演繹」、「帰納」、「推論」に分類した「論証の三分法*1」があります。
ここでは、「演繹的説明」と「帰納的説明」の差異*2について、考えてみましょう。

Photo_205これら手法について、考えてみるに、「表現する時間の長さ」によって分類することが、分かりやすいように思いました。仮にある事象を「10分」で説明しなければならない、という場面を想定してみます。この場合、論理だてた「演繹的説明」をおこなうのであれば、ひとつひとつの「公理 」を理解してもらわなければならないわけですので、とてもではないですが、10分では終わりません。

長尾真は、「演繹的説明とは、ある条件・状況が存在していれば、この因果関係(法則)が働いて、このような結果が得られるという形の説明である。」、さらに、「<ソクラテスは人間>である事実から、<ソクラテスが死ぬ>ことを説明しようとすれば、<人間はいつか死ぬ>ということから始まり、<人間>や<なぜ死ぬのか>、さらには<人間はなぜ生まれたか>などについて言及しなければ、最後の結論に行きつかない。結論を結論的に理解するためには、その過程を十分把握しなければならないのである。」と述べています。

先の内容を「10分」で説明するには、論理を手短にまとめ、結論を導き出すことも可能ですが、しかし、それは説明する側の論理。受け側にしてみれば、その手短な論理がひとつでも欠けることにより、結論を導き出せない場合もあるわけですね。

「帰納的説明により、結論たる仮説を先に述べておけば、その説明たる公理が多少欠落しても、十分にその結論を補完できる、ということです。「りんごが木から落ちる」という現象は「万有引力」により起こるものである、という仮説を説明できれば、「万有引力」に対する説明が多少欠落しても、その内容を伝えると言うことにおいては、問題はないでしょう。このことにより。説明時間が極端に縮まることは明らかです。

Photo_206

昨今、「説明」のためのツールはいろいろありますが、用途に応じて使い分けることにより、さらに利便性が高まります。

たとえば、「ワードプロセッサー」は論文的記述、すなわち「演繹的説明」に用い、「プレゼンテーションツール」は一覧的記述、つまり「帰納的説明」に用いる、ということです。著名なツールとしては、マイクロソフト社が販売する「ワード」、「パワーポイント(パワポ)」があげられます。

「ワード」では、目次の自動作成を活用し、起承転結で「「演繹的説明」を記述し、パワポは、「図形処理」が基本的テクノロジーですので、「メタファー」による「一覧的表現」が、「機能的説明」に適しているでしょう。

いずれにせよ、第三者に情報を伝達する場合、時間があれば演繹的に正確に伝えることができます。しかし、時間がない場合に理解度を深めることは難しいことから、帰納的な説明が非常に有効であることは、これまでの経験から、多いに実感するところです。

なんだかんだ言っておりますが、相手に理解を求めるためには、きちんと相手に向かい、「こころ」を持って取り組むことが大切であることは、言うまでもありません。

*1: 「パース<人と思想>」:岡田雅勝著(清水書院146)1998年
*2: 「わかる」とは何か:長尾真(岩波新書713)2001年

Comment(0)