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陰謀派が主張する、2012年衆院選「不正選挙」説を検証する

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2012年の総選挙が「不正選挙」だった説を繰り返し唱える人々がいます。

ここでの不正選挙とは、特定の選挙区で不正があったというレベルではなく、全国で大規模な不正があって1000万票規模での投票が消され、本当は高かった投票率が低かったことにされてしまったというおおがかりなものです。

大がかりな説ゆえ、専門家やマスコミは「グル」になって国民を欺いている、対立して争った他の政党も裏では繋がっていてグルである、とかとか、とめどもなく、陰謀のドミノ倒しが広がっています。こういう陰謀論が可能なのか、陰謀論者が唱える5つの主張に沿って検証してみましょう。

主張1:投票所でみんな行列していたのに低投票率というのは信じられない。
⇒ 実際:東京を中心に大都市部で投票率は十分高く、冬の選挙で短時間に集中すると行列が起きる場合もある

これは、世間でもそう思う人が多い疑問だと思いますが、先日のブログで検証し、東京など大都市では実は投票率は高めであったこと、今の制度になって初の真冬の選挙であり、暖かくなってから特定時間に人が集中したとか何か渋滞が起きる理由が考えられることを論じています。
細かな時間帯別のデータがないと詳細はわかりませんが、東京での投票率は前回とそう差は無いほど十分高く、そういう中の冬の選挙で、暖かくなってから投票が集中すると、「行列」が一部で起きることは十分あり得る、そう考えています。

少なくとも、一部で行列が起きたから低投票率が捏造だという証拠にするのは無理があります。

いずれにしろ、不正選挙の傍証にするには、行列が一時起きた投票所で、朝早くも混んでいたのか、日没後はどうだったか?など全時間帯の投票所の混み具合、できれば投票した人数のカウントが必要でしょう。
http://blogs.itmedia.co.jp/sakamoto/2012/12/election-46-rat-897d.html

投票所で行列報告多数なのに投票率が低かった?その理由:坂本英樹の繋いで稼ぐBtoBマーケティング:ITmedia オルタナティブ・ブログ via kwout

主張2:開票の中間データまでは各候補一定比率で票が伸びていたのに、最終確定データでは当選した候補の票だけ伸びている。これは不正があった証拠ではないか?
⇒ 実際:開票は、票の仕分け後チェックして数えるため、得票が多い候補が最後に伸びるのが通例。下位候補は先に数え尽くし、疑問票分などわずかしか伸びない。

選挙の開票は、始まりから終わりまで均等に数えるものではありません。混じっている票を候補ごとに分けながら束を作り、その束を二人がかりで数え、票の記載も確認するという手順を取ります。

実際は、各候補ごとに票を分けたあとで、その数を数えるとか、期日前投票や市街地の票がまとめてあとからカウントされるとかいう不均等な開票をされるものです。つまり、開票の最後は、最多得票者の票が伸びるのが通例だとさえ言えます。もちろん、二候補の接戦でどちらかが期日前投票が多いとか、集計に手間取る中心部に支持者が集中していて二位候補が最後に伸びるとかいうことも考えられます。一方で、下位候補の票は早めに数え尽くしがちであり、最後に伸びにくいということは言えます。

平たくたとえると、開票は運動会の玉入れの玉を数えるようなことをしています。途中まで白組と赤組両方の玉数はそろっていて、最後になって買った方だけの玉数が増えます。少数派の候補の票は早く数え終るのが通例で、疑問票の微妙な分だけが最後に積まれる。その一方で得票が多い候補は数えるのに時間がかかるのが通例だからです。

主張3:小選挙区での得票に対して、比例での得票が少ないのは細工されているのでは?
⇒ 実際:小選挙区で投票した候補の所属政党と違う政党に比例で投票するケースは非常に多いので、自然な結果。
日本の小選挙区比例代表並立制で、小選挙区で投票した候補の所属する政党に比例でも投票する方ばかりではありません。今回の総選挙、世論調査で投票先未定という方が多かったように迷った時に、バランス をとって分けて投票するとかいう行動は増えます。また、所属政党を点々として加入した直後だったりすると、その政党の名前が個人の支持者に浸透してないということもあります。

また、ご本人がどれほど所属政党を強く推し出すかも関係します。例えば、「広島6区で 亀井静香氏が91,078票を獲得しているのに、 未来の比例票は22,711票(25%)で少なすぎる。」とか主張がありますが、今回の広島6区での選挙ポスターを見ても、自身の名前の売り込みに亀井氏は集中しており、「未来への約束!」とは書いても所属政党名は拡大表示でもよく見えないほど目立ちません。

2012.12.06 第46回衆院選挙戦スタート~広島県6区選挙ポスターhttp://4.bp.blogspot.com/-YgbqgDSUZug/UL9D0xU5UhI/AAAAAAAAC48/wh3dant08Zk/s1600/46syuuin.JPG

亀井氏は元々、自民党所属の保守層が地盤です。昔からの支持者で選挙区では亀井氏と決めている有権者が亀井氏の所属政党を知ってさえいない、そんなケースさえ多そうです。約25%というのはありそうな比率でしょう。

また、宮城の各開票区と新潟で「0.6で揃っている」とかいう主張もありますが、0.59から0.61とかある程度バラけていますし、近い比率のところをピックアップしているだけでしょう。

主張4:選挙のソフトが一社独占で、細工して票を操作したのではないか?
⇒ 実際:一社独占ではなく、複数社が提供。また、機械は分類に使うだけで、計数機で数えた枚数を、人間が二人がかりで読みチェックしている。
ソフトウェアであれば、ある係数をいじって数字を操作できると考える方が多数いらっしゃいます。しかし、「選挙機器」の実態は、「自書式投票用紙読取分類機」であり、文字通り、手描きされた投票用紙を読み取って分類するための装置です。

http://www.musashinet.co.jp/department/election/election_01.html

選挙機器 | 投票用紙計数機 投票用紙交付機|株式会社ムサシ via kwout

A、B、C、D、Eと5人の候補がいて、手書きされた投票用紙の束が、例えば、
ACBADBAZABCDZCBAB と集まっていたとしします。(Zはその他分類不能)それを仕分けて

AAAAA
BBBBB
CCC
DD
ZZ
とかに分けるというだけの装置です。(手書きを高速仕分けできるというのはすごいことですが)
その 投票用紙計数機の紹介を引用します。そして、ある一社だけ糾弾する書き込みが目立ちますが、実は独占というのは事実誤認です。小吹 伸一氏のまとめ、「2012年衆院選は「不正選挙」だろうか?」で知りましたが、グローリー株式会社から、投票用紙分類機、投票用紙自動交付機、投票用紙計数機を提供しています。

http://www.glory.co.jp/product/ninsyou/gts-500.html

自書式投票用紙分類機 GTS-500|認証/識別機器(分類機)|製品情報|グローリー株式会社 via kwout

また、実際の開票の様子は立会をされた方のブログに詳しく記載されています。例えば以下のブログです。12月16日衆議院議員総選挙の開票立会をしてみて

「通常国会で、区割変更決めるって約束したんですよ。 違憲判決も出るし・・そのまま任期満了までやれると思います?」

この計数機の使い方としては、事前に手で投票用紙を500枚とかある程度の枚数をまとめて束にしてから仕分けるそうです。そこから読み取り分類器にかけて、山分けします。分類不能なものは、人がチェックし、分類されたものも、二人がそれぞれ1回票をチェックし吟味して100枚毎の束にして、その束を数えていきます。

結局のところ、読み取り分類器は投票を数える効率化を行うものですが、最終的には二人がそれぞれ数え、その様子を各党の代表の投票立会人が監視するという体制がとられています。また、各党から立会人が派遣されており、不審な動きがないか確認をしています。

全国で大掛かりな不正を行うのに、分類機への細工やそのメーカーの一存で可能とか考えるのは多重にあるチェック機構の存在を知らないか無視しているゆえの誤解です。

主張5:マスコミの世論調査や出口調査も捏造や調整がされている。
⇒ 実際:いろいろな主張を持つ、マスコミ各社の世論調査結果がほぼ一致していたのは、マスコミの意図に左右されていない証拠。

不正選挙派に、不都合な調査に関する事実が二つあります。事前の世論調査が、選挙結果に即していたこと、そして、マスコミ各社が行った出口調査に基づく、選挙結果予想が実際にかなり一致したことです。

大規模な不正選挙があったという前提で、不正選挙派は、世論調査も出口調査も捏造だと主張します。そういう一部意見に迎合した記事が、週刊誌にも出て珍重されていました。例えば、週刊ポストでの記事です。

鳥越:毎日新聞の記者時代の経験ですが、例えば、選挙に関する世論調査の結果を発表する前に選挙の担当者が数字を“調整”するのをしばしば見てきた。担当者が取材で掴んだ選挙区情勢と違うという理由です。そういった裏事情を知っているので、私自身は世論調査の数字を疑っています。

※週刊ポスト2012年8月3日号

この発言、週刊誌の記者か鳥越氏のどちらかが情勢分析記事と世論調査とごっちゃにして混同しているという可能性が考えられます。というのも、調査は調査であり、予想ではないので外れないように調整する必要性が無いのです。そんな誤解が疑われる記事ですが、担当が調整して、選挙結果を当てようと調整していると主張しているわけで、外部から圧力をうけて数字を変えたとは述べていません。鳥越氏の意見に沿っても、世論調査の結果は取材で担当が掴んだ情報で調整された、結果を当てにいった予想の数字です。マスコミが事実を曲げたというよりはより「もっともらしい」数字にしたという話です。

また、多様な意見を持つマスコミ各社で調査結果がほぼ一致したのもマスコミの意図に左右されていないことの反映でしょう。

最後に:不正や陰謀を主張する人は、現場の苦労を尊重し、何か現場を見てみよう
現場を見ても誤解することがあるから、統計やデータもあわせて読み考えようが私の持論です。それでもなお、現場で実地に見て分かることが多々あります。ただ、そんな全部見て知るわけにもいかないので、詳しくないことについては専門家の意見を尊重しています。

今回の総選挙、12月のただでさえ忙しい時期に急に決まって関係者のご苦労はいかばかりだったかと改めて感謝が沸き起こります。それだけ苦労して働いたのに、現場もろくに知らない人々が想像で非難を浴びせている現状は非常に悲しいことです。

開票現場を見るのはしばらくなかなかできないでしょうが、他のことでもいいので人が苦労して働く現場を見て、そこでどういう苦労がされているかを見るといいでしょう。毎日の通勤通学の交通機関でお世話になる人、三度の食事に関わる人、などなどです。

人の仕事にケチをつけるというのは、それなりの覚悟してやるものだと思います。陰謀派に加担する意味、人の仕事を無にしていることの重大さを今一度考えて欲しいそう願っています。

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