誰がオープンソースを作っているか?
先日、IPA(情報処理推進機構)で講演をさせていただきました。西垣理事長以下、20名ほどの理事やユーザの代表者の皆様がおられました。原題は「米国におけるOSSビジネスの現状とOSS活用事例について~ユーザがOSSを安心して利用するために~」というものですが、講演を通して「誰がオープンソースを作っているか」を解説させていただきました。
IPAを初めとして、日本のインテグレータやコンサルタント会社は、オープンソースをいかに見極め、そしてうまく利用するかというノウハウをずっと溜めて来ました。このノウハウは相当なものだと思います。たしかに、安心してオープンソースを利用するためにはこれらのノウハウは非常に重要です。
しかし、根本の課題が見過ごされており、それが、誰がそのオープンソースを作っているかという点です。安心して利用するには、しっかりした体制でそのソースコードが作られ、保守されなければなりません。OSが32ビットから64ビットに代わったり、アプリケーション間の連携プロトコルが策定された時に、誰が当該ソースコードを改良してくれるのか。
一般に、それは世界中のボランティアが勝手にやってくれるのだろうという認識です。現実に、それでうまく行っているコミュニティもあるかもしれませんが、オープンソースが大量に導入される現在、「誰かがいずれやってくれるはず」という認識はかなりリスクの高いものになります。
標題の講演で私が力説したのは、米国ではこのようなポジションをビジネス化する動きが90年代からあり、ネットバブル期に周囲の枯れた動向と裏腹にベンチャーキャピタルの投資を潤沢に受け、いまや多くのオープンソース・ベンチャーがエグジットする時期に来ているということです。すなわち、彼らは、時価総額合計で数千億円にも達するソフトウェアエンジニアの雇用環境を作ってしまったのです。いま、われわれが手にしているオープンソースの多くは彼ら被雇用エンジニアが作り出しているのです。
このように雇用環境が整った米国に日本のコミュニティ・ボランティアが勝つのはしんどいことです。オープンソースの大半は米国から流入し続けることでしょう。
日本はどうしたらいいのでしょうか? ソフトウェア市場が小さい日本では、米国のようなマーケット作りは成功しないでしょう。逆に、米国発のコンポーネント・ソフトウェア(OS、ミドルウェア)上にアプリケーションを創出するアプリケーション・ベンダーの存在価値が出てくると思われます。それも、従来のインテグレータやベンダー像とは異なり、コンポーネントとテーラーメードを組み合わせる、しかも、それを劇的に短期に、かつ、高品質に仕上げるベンダーの価値が高まるはずです。それがオープンソース時代のスピードと価格観を持つ市場だと思われます。
日本はこの層に世界一と言っても良いほど優秀なコンサルタントを膨大にかかえる類稀な国です。この市場に資金を投じ、かつ、米国のコンポーネント会社にも資金を投じて資本を連携し、自律分散化したアプリケーション・ベンダを作ることがもっとも市場価値が大きいと思われます。要するに、プライベートブランド化した素材を米国から取り寄せ、日本の一流シェフが料理するということです。
このようなお金の流れを通じてコンサルタントとエンジニアの雇用を作り出すこと、それが「ユーザがOSSを安心して利用するために」やらねばならないことではないでしょうか。