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ハッカソンイベントに一石を投じてみる(後編)予算拠出における外資系IT企業の中間管理職の悲哀について

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前編ではハッカソンの審査方法について、ImagineCupでのハンズオン審査を紹介させていただき、見識あるいろいろな方々からフィードバックをいただいた。

若干煽り気味で終わった前編の続きは、企業としてのハッカソンイベントに対する関与についても、少しだけ踏み込んでみたい。具体的には、予算拠出における外資系IT企業の中間管理職の悲哀についてぶちまけてみたい。

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※写真は弊社主催のDevOps Hackationの様子。今回の費用の問題とは無縁のガチ系ハッカソン

ハッカソン主催の団体や企業からの「協賛」依頼は多数ある。数年前、マイクロソフトがエンジニアのコミュニティやエコシステムから蚊帳の外に置かれていた状況からはだいぶ親近感をもっていただけているのはありがたく、顔が広いので「とりあえずいさごさんに相談だ」というポジションではあるのだが、少なくとも今年度に関しては私の裁量だけで振り出せる予算はほとんどなく、必ずしもすべてのお声がけにお応えできていない点は申し訳なく思っている。

「協賛」のご依頼なので、まずはお話しをお伺いしてみて、主催者の想いや会の意義に共感、賛同していることを大前提に、会社としてどういう協力ができるかを考えるのだが、さほど多くない人数でのピザ+ビール代(数万円程度)や、会場貸してください、といった依頼くらいなら、担当者のガッツと時間でどうにかならなくもないし、実際私の夜と土日の時間は可能な限り対応させていただいている。いわゆる「カラダで払います」的な対応である。

しかしながら、現金いくらか拠出してくれ(でないとAzureじゃなくてAWS訴求しちゃうぞ!)といわれると無理してどこかから予算をひねり出してこないといけなくなり、主催者の想いと協賛社の要望の間にねじれが生じる。できる限りイベントの趣旨と、得られる我々のビジネス価値のすりあわせを行いはするものの、結果、参加者や関係者のみなさまにおもしろくない思いをさせてしまうのであれば、協賛をあきらめざるを得ない状況も多々発生している。とにかくカネだけ出してくれ、というお話しは、双方にメリットをもたらしにくいので、そもそもお断りしている。

とはいえ、私がマイクロソフトにいたいと思う理由は、整合性がとれる(可能性の高い)テクノロジーやビジネスの幅が広いことにあり、国内、本社含め社内協賛を集めるためにかけずりまわることも少なくない。無茶なこともいろいろやって突破してきていることから、稟議の回し方や予算の取り方には一家言あるので大手企業でお困りの方のご相談はできる限り対応させていただきたいと思う。

同じような話が、オープンデータの政府系会合でも度々議論になりコメントしている。私はVLED(オープン&ビッグデータ活用・地方創成推進機構)と内閣官房オープンデータ利活用推進WorkingGroupの構成員を担当させていただいている。自治体が地元のNPOなどと連携し、アイディアソン、ハッカソンを開催することも多くなってきており、中でもオープンデータを活用した地域住民生活改善や観光促進などをテーマにするものが多い。

この動き自体は大変素晴らしいことではあるし可能な限り応援しているのだが、まれに実施予算の取り方、すなわち、ハッカソン実施目的=担当者の理解がちょっとズレていた場合に不幸が起こることがある。1回のハッカソンで新しい事業が生まれることはめったにない。当事者たちにとっては当たり前のことではあるのだが、にもかかわらず、まれに「ハッカソンを開催すれば、地場でITを使った継続的に儲かる新しいサービスが生まれる」と思われている方がいるか、あるいはそうでも稟議に書かないと予算が申請、執行できない場合がある。これは自治体に限ったことではなく、大手企業が自社APIやサービス利用促進をはかるときにも起こりうる問題だ。

多くの場合、ハッカソン(を1回開催しただけ)で新しいビジネスが生まれるわけではない。少なくとも参加者たちはそのためにやっているわけでもない。しかしながら、週末密度の高い時間を過ごす中で、ある種の信頼関係ができあがることもまた事実。ハッカソンを通じて得られるものは、ぽっと出の即席プロダクト、ではなく、参加者同士の仲間意識やゆるやかなコミュニティなのである。

「あのときのハッカソンがきっかけで知り合った仲間と会社作ったんですよー。今度サービスのデモ見てください!」とか言われたりするのは主催、企画、支援者冥利に尽きる瞬間だ。約5年前のブレークスルーキャンプ2011以来、何度か経験させていただいている。

中長期的な視点で考えれば、ハッカソンに新しいビジネスを創出する可能性があるという理解は正しいが、上述の「外資系IT企業の中間管理職の悲哀」を吐露すると、資金を拠出したタイミングから3年後の成果を評価する仕掛けはない。期待されるKPIに対する成果を四半期、長くても年度内に求められるのが通例であるのだが、その点において、ハッカソンへの協賛から即時的なビジネスリターンを求めるのは酷な話である。上述のブレークスルーキャンプ2011も、多額の協賛をした割にマイクロソフト技術を利用した作品は少なく、当時の短期的な評価としては大きな成果なし、という担当者には少々つらい状況ではあったが、5年後の今になって振り返ってみると、ここから多くの起業家が生まれ、協業できているのは大変嬉しいことである。

とはいえ、全国津々浦々で様々な形式の日夜ハッカソンは繰り広げられており、企業や自治体の誰かが、リスクとリソースを拠出して支えているものも少なくない。豪華賞品型ではないとはいえ、なにがしかの協賛を必要とするイベントは、誰かのパッションと胆力で下支えされていることを、参加者のみなさまにも、ちょっとだけでいいから、理解していただけると大変ありがたい。そのあたりをくんでいただき、協賛企業のAPIやプラットフォームを積極的にご利用いただけたりすると、感無量である。

日本でもハッカソンやアイディアソン、ビジネスコンテストなどが、世の中の変革を牽引する状態をつくりあげるべく、今の立場を利用して貢献してゆきたいと切に願う。同じような立場におられる皆様の多くは、4月23日(土)に開催するMicrosoft Innovation Dayにご来場いただけるものと期待している。共にがんばりましょう。

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