国内クラウドデータセンター構想にはもっと壮大な野望をもっていただきたい
経済産業省や総務省でクラウドコンピューティングに関する検討が進んでいる。
資料は公開されているので、クラウド関連のビジネスに興味のある方は見ておいた方が
よいだろう。我々マイクロソフトをはじめとする外資クラウドベンダーも研究員として
参加させていただいている。
■経済産業省
平成21年7月22日(水)
クラウド・コンピューティングと日本の競争力に関する研究会(第1回)-配付資料
■総務省
平成21年7月28日(火)
クラウドコンピューティング時代のデータセンター活性化策に関する検討会(第2回)配付資料
これら会合に対するマイクロソフトとしての公式見解は各研究会、検討会で述べさせて
いただいているが、ここでは外資ベンダーの日本支社でクラウドビジネスに関わる者の
ひとりとして、ここでは私の勝手な個人的見解を述べさせていただきたい。
情報管理のガバナンスやリスクなどの観点から「データセンターは国内にあるべし」論
を振りかざすのは簡単ではあるが、データセンターが海外にある前提で、その対応策を
みんなで考えておこうという、経済産業省主導の議論は適切な方向に展開されていると思われる。
海外のデータセンターを利用していてもリスクの範囲は限定されるというならば、
それはどこまでか、海外だろうが国内だろうが、クラウドサービスを活用して新しい
価値を生み出すエンジニアを育成するためには何をすべきだろうかという議論を前向き
に進めることで、最終的にクラウドを本格的に活用することになろうがしまいが、
何らかの示唆は得られるものと思われる。
ただ、産業育成という観点からもう一歩踏み込んでいただけるとありがたい。
すでに論点には含まれていると思われるが、日本のデータセンターをグローバルに、
少なくとも地理的に近いアジア圏で、広く利用してもらえるようにするために
何をすべきだろうか、という議論をもっと深めていただきたいと考えている。
例えば、マイクロソフトのデータセンターを米国、欧州、アジアに少数建設するとして、
日本が候補地に選ばれるための競争力はどこにあるだろうか、と提供者側の視点で
考えてみていただきたい。
すぐに人件費や土地代、電気代などの高コスト体質が課題としてあげられると思うが、
それ以上に、日本の利用者のためだけにデータセンターをつくろうとしているのか、
それとも、他国からも利用しやすいデータセンターを日本につくろうとしているのか、
姿勢としてどちらを目指しているかという点である。
これは我々のようなクラウドベンダーや日本でファシリティを持つIT、ネットワーク
企業だけの問題ではなく、国としての姿勢も重要であると考える。法律面、税制優遇、
環境への配慮などの観点から産業育成に本腰を入れるべきであろう。
日本人による、日本人のための、日本のデータセンターに固執する日本と、アジアの
ハブとして機能する姿勢をより強く持つシンガポールや香港とでは、国際的な競争力に
差が出てしまうのは致し方ない。確かに、日本国内だけの需要をまかなうだけでも、
市場の絶対額としては十分大きいという意見もあろうが、アジア圏全体の経済発展を
考えれば、成長率の高い市場に投資したくなるという思惑もご理解いただけると思う。
この手の議論で思い出されるのがハブ空港の問題だ。
マイクロソフトだけでなく、各クラウドベンダーのデータセンター構築計画は、まだ
各国に1つ以上というレベルではなく、規模の経済を追求する巨大データセンターは
ハブ空港のように各地域に1つずつあればよいという段階である。地域におけるハブ
としての地位を確立するためには、空港問題同様、データセンター構築においても
早めに国としての競争力をあげておく必要があると思うがいかがだろうか。
そういった国をあげての姿勢が具体的に現れてくれば、MSFT組織内における我々MSKKも、
動きやすくなるので正直ありがたい。結果、日本にデータセンターをより展開しやすくなるだろう。
ちなみに、GoogleやAmazonもそうだろうが、クラウド的な超大規模データセンターを
構築しても雇用の創出は期待できない。何故ならデータセンターの運営は高度に自動化
されており、人間が関わる作業はほぼ無人といえるほど、極限まで減らされているためである。
もし、和製クラウドなるものが地域における雇用創出を意図したものであれば、
コスト競争力で大きく水をあけられるのは必至。また、土建屋的ハコモノ発想も同様。
昨今のコンテナ型屋外設置データセンターと比べると、地場建設業者への配慮で
立派な建屋をつくってしまえば建築・維持・運用費用に大きな差が出てくるだろう。
もはやデータセンターは雇用対策やハコモノ行政の対象ではない点にも留意いただきたい。
念のため。
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1年戦争はジオン公国の独立を旗印に宣戦布告されたが、その実、ジオン公国の
ギレン・ザビ総帥は地球圏の支配を目論んでいた。自分たちの安住の地を得るという
表向きの主張と地球圏全体を逆に支配してやろうという野望には大きな隔たりがある。
言葉を選ばずアジア圏を日本が支配とかいってしまうと波紋を呼んでしまうだろうが、
アジア圏全体のデータセンター需要は日本が背負って立つというくらいの覚悟、心意気、
したたかさをもって、壮大な野望をうち立てていただきたいものである。その野望が
実現されれば、アジア圏全体に日本の技術力を持って貢献できることになろうし、
投資した税金も無理なく回収できるだろう。