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「電子書籍」の話を整理しよう。~三つのレイヤーに区別して、前向きな議論を~

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2011年になっても、電子書籍に関する議論は活発です。

デバイスはどれがよいのか?、プラットフォームの覇者はどこか? ソーシャルリーディングは広まるか?出版社のビジネスモデルはどうなるのか?様々な視点で語られていますが、一度、整理しませんか?

「電子書籍」というキーワードで議論されている内容が、私は、そもそもレイヤー(階層)の違う3種類がごっちゃのまま、話されていて、余計に混乱しているような気がします。

音楽プロデューサーとして、いわば「隣村の住人」から、この議論の整理に加わりたいというのが、本稿の趣旨です。

 

(1)従来の書籍を電子化配信するビジネス

私は「電子書籍」という言葉は、その言葉の成り立ちから言って、基本的に「これまで紙でしか発表=出版されていなかった、小説やコミック等のコンテンツをインターネットを使って、デジタルデバイスで読ませること」だと理解、定義しています。

この定義に関して、限定して言えば、正解を導くことはそんなに難しくありません。ユーザーの利便性を最大限配慮しつつ、IT業者の手数料を最小限にして、作家&出版社にできるだけたくさんお金が入る仕組みをつくるということにつきます。政治的な調整は、困難でしょうが、論理的、技術的にはシンプルです。

(この件については、以前、出版社のデジタル担当者の集まりでお話した際の資料がありますので、こちらをご覧ください。ブログにもまとめています。)

出版社が、著者との信頼関係をベースにしながら、既存の作品を、ユーザーの利便性を求めて、マルチユースして、換金化することは、当然の義務ですし、ビジネスチャンスです。

雑誌の電子化もメルマガとの競合等はありますが、基本的なこの文脈で理解すべきでしょう。

 

(2)電子書籍プラットフォームを活かした新しいジャンルのコンテンツの企画開発

前述の「電子書籍化」と、インターネットの発達で成立した新しいコンテンツプラットフォームに出版社の持っているノウハウや人脈を活かして、これまでとは違った、新しいコンテンツを提供してビジネスすることは本来は区別して考えるべきことです。

これまでになかった新しいジャンルの文芸(っていうかコンテンツジャンルっていうか)をつくるんだと考えた方が、わかりやすいと思います。

その際に、音楽や動画などもとりこんだ新しい小説のスタイルをつくるという、先日、伊集院静さんがやられたような、リッチなコンテンツをつくるという方向とユーザーと双方向でつくっていくCGM的な作品をは、まったく逆なベクトル(方向性の指向)を持っています。

様々な可能性があることを理解したうえで、編集者や異ジャンルのプロデューサーが、自分の得手を活かして、世の中に求められていると思う作品をつくっていくべきだと思います。

■記事--伊集院静氏の提唱で電子書籍レーベル設立、第1弾「なぎさホテル」を発売

余談ですが、伊集院さんが誤解に基づいてJASRACを批判していますね。私はJASRACの正会員社です。組織としての古い部分には、不満で、常々批判していますが、今回に限っては可哀想でした。こういう混乱は時代の過渡期に混乱はつきものですが、クリエイターが勘違いするのは仕方ないとして、プロデューサー(今回に関しては編集者)が、きちんと情報と見識を持って、対処してもらいたいです。

このインタビューにあるJASRAC使用料7%は一方的な思い込みによる誤解です。新しいコンテンツでは、使用料規程のどれに当てはめるかは相談の余地があります。また、ジャパンライツクライアンス(JRC)などに信託すれば、もっと柔軟に権利者側が設定するという方法もとれます。

 

ちなみに、電子書籍に関する議論では、音楽ビジネスとの対比、引用が多く見られますが、誤謬が多くて困惑します。

ベストセラー『電子書籍の衝撃』(佐々木俊尚著)も、本の主旨そのものには同意するのですが、音楽ビジネスに関する引用は、不正確です。(その件に興味がある方はこちらをご覧下さい。)

音楽業界と出版業界は、類似点も多いので、お互い参考になることはあると思いますが、正確な理解に基づかなければ意味がないと思います。

 

(3)従来の出版ビジネスから派生した、ビジネスモデルそのものが新しい業態の模索

さて、「電子書籍」という話の延長線上でもう一歩踏み込んで言うと、おそらく、いちばん、面白いのは、異業種とのコラボレーションです。従来の書籍の延長線上にあるプラットフォームを活用しながらも、マネタイズそのもの仕組みを変えてしまうことに挑戦すべきです。

 パソコン(すらなくなってしまうかもしれませんが)のモニター上に並んだ瞬間に消費者にとっては、すべてが同列です。

 元々は小説と呼ばれていたものから派生して、まったく違う形態、マネタイズの仕組みが生まれる可能性があるのが今です。これが一番、画期的で、わくわくすることですし、一番、難しいことだと思います。もちろん、出版社の存在意義自体も問われます。

 

(1) 従来の書籍作品の電子的プラットフォームでの提供

(2) プラットフォーム上での新しいコンテンツジャンルの企画開発

(3) 出版ビジネスから派生しながら、ビジネスモデルそのものが新しい業態の模索

 

 この3点は、それぞれ区別して、議論すべきですし、その違いを意識しながら、イマジネーションを広げていくことが大切ではないでしょうか?

 私はプロデューサーとして、(2)の新しいコンテンツの企画もやりたいですし、(3)の新ビジネスモデルの構築にも関わりたいと思っています。そんな実業者の視点で、現状の議論には、無駄にロスが多い気がして、本稿を書きました。

 異論、反論歓迎します。


山口哲一(音楽プロデューサー・株式会社バグコーポレーション代表取締役)

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