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iBooks AuthorのファイルフォーマットはEPUB3非互換

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アップルからiBooks Authorが発表され、出版業界の片隅にいる者としては大変気になるところ。ニュース記事はたくさん出ていますが、関連製品を含めた概要は以下の記事のとおり。

電子書籍作成ツールまで無料:今度は“教科書を再発明” ――Apple、「iBooks 2」「iBooks Author」「iTunes U」アプリ発表 | ITmedia +D PC USER(2012年01月20日)
 http://plusd.itmedia.co.jp/pcuser/articles/1201/20/news017.html

iBooks 2、iBooks Author、iTunes U の3点セットと iBookstore というプラットフォームで電子書籍業界に参入、まずは「教科書」からといったところでしょうか。このような教育産業への取り組みは最近盛んなようで、Microsoftの学生向けソーシャルサービス「So.cl」(ソーシャルと読む)も異なる動きとして捉えるべきではなく、オバマ政権が教育政策に力を入れていることにも関係しているでしょう(政策として打ち出す以上、この手の事業にはなんらかの投資減税措置があるはず)。So.cl のようなものはアップルがやれば iCloud戦略とも合致するような気がするのですが、もしかすると開発途上かもしれません(名称はやはり iSocial? そして "社会を再発明" するのか?)。

2012年度米国予算教書(概要)|外務省(2011年2月15日)
 http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/keizai/eco_tusho/us_2012.html

(1)競争力のある人材を目指した教育
・幼児の教育水準向上を目的とした基金を設立
・高い基準を設定して改革を促進し,目的達成に報いることで,小中学校におけるファンディングを改革
・今後10年に向け,科学,テクノロジー,エンジニア,数学分野での教師を10万人雇用。
 予算は8,000万ドルを計上し,(10万人のうち)1万人は今後2年間で採用
・より多くの国民に大学入学への門戸を開放。2008年以降増額した奨学金(Pell Grant)を維持
・競争力ある人材を育てるなど,職業訓練の新しいアプローチ促進


業界関係者として気になるのは、佐々木康彦さんのエントリー「iBook2とiBooks Author発表も、いまだ日本のiBookStoreは開店休業状態で電子書籍ビジネスとしてはお話しになりませんw」(平凡でもフルーツでもなく、、、)です。[ ]は引用者付記。「リフロー」とは、ページ内の文字数(コンテンツの量)が変わるということ。

[iBooks Authorで作った電子書籍は]リフローされる訳ではないのでiPadで見たときの読みやすさを意識してレイアウトする必要ありですが、一般的なePub形式のレイアウト面での表現力の貧弱さに辟易としていた方々にはiBooks Author何といっても無料で使えますからまずは触ってみてはいかがでしょうか?

iBooks Authorの登場で電子書籍制作の仕事はまた減るんじゃないか?と社内で意見も出ていたのですが、Kindle向けのテキストしか無い小説はどんどんこういうツールで自分で制作していく時代になるでしょうが、ふと思ったのはレイアウトとしての美しさとか図版、ギャラリーの見やすさという観点でプロの能力が必要なケースもあるでしょう。

「ePub形式のレイアウト面での表現力の貧弱さ」は出版業界関係者みんなが困っている問題で、小説のような縦組み・文字主体のものはいいのですが、IT系の技術書のような、図解、プログラムのコード、ページ参照が多数あるような書籍を ePub形式で作るのはかなり大変です(例外はTeXで組めるぐらいシンプルなレイアウトの技術書)。実際、IT系の技術書はPDFで公開するケースがほとんどです(※1)。こういう意味では、「固定レイアウト対応したePub形式」は画期的と言えるでしょう。

ところが(当然ながら?)、iBooks Authorのファイルフォーマット「IBA」は EPUB3 に対応していないそうです。それどころか、EPUB2互換でもない。アップルお得意の独自フォーマットだというのです(以下の関連リンク2つを参照)。つまり、

 IBA ≠ EPUB3

 IBA = EPUB2 + HTML5 + アップル独自の拡張

となります。これを、アップルは標準を「あんなものはクソだ」(© スティーブ・ジョブズ)と思っていることの証左と見るか、「第一級のものを提供する」のがアップルのDNAと見るのかは判断の分かれるところです。いずれにせよ、囲い込み戦略ではあるのは間違いありません。

DTPソフトとの連携を考えてみると、Adobe InDesign と iBooks Author がうまく連携できるかどうかも気になります。そういえば、近日 Adobe CS6 が発表されるでしょうし、InDesign CS6 がどれだけ電子書籍制作機能を向上させているのか…。今年もまた電子書籍界隈はホットで不透明です。


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※1 最近では IT系書籍のEPUB出版の例も見られるようになりました。試験運用中といったところでしょうか。以下の記事は、いずれも ITmedia eBook USER のもの:
1. オライリー・ジャパン、電子書籍専用タイトルをEPUBで刊行へ
 http://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1201/12/news085.html
2. 技術評論社、電子書籍販売サイト「Gihyo Digital Publishing」を開設
 http://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1108/30/news064.html

【関連リンク】
iBooks Authorのファイルフォーマットについて
iBooks Authorのファイルフォーマット「IBA」を知る - builder(海上忍)|ZDNet Japan 2012年1月20日
 http://builder.japan.zdnet.com/os-admin/os-x-lion11/35013298/
iBooks Author, a nice tool but..|<Glazblog/> 2012年1月20日
 著者のDaniel Glazman(@glazou)は W3C CSSワーキンググループの共同チェアマンだそうです。
 http://www.glazman.org/weblog/dotclear/index.php?post/2012/01/20/iBooks-Author-a-nice-tool-but

[2012-01-23 20:37追記]
上記のDaniel Glazmanのエントリーに対する反論をJohn Gruberがアップしているそうです。hon.jpの記事(http://hon.jp/news/1.0/0/3044/)によると以下のとおり。

 議論の争点は、Apple社の新しいiBooks Authorソフトが、現在IDPFで公開されているEPUB3.0仕様をiPad向けに独自拡張した「.ibook」形式ファイルしか出力しない件について。たとえば、W3C CSS Working Group代表のDaniel Glazman氏がCSS管理面での問題点を指摘すると、Mac業界の有名プロガーであるJohn Gruber氏はオープン規格を私企業がどう拡張しようが勝手であると反論。このような感情論や出版ワークフロー論、企業として倫理論なども交えながら、ネット上の各所で議論が白熱している。
 しかし、大半の議論で共通しているのは、Apple社がiBooks AuthorにEPUB3インポート機能を搭載すれば問題の多くが解決するということ。

On the Proprietary Nature of the iBooks Author File Format |Daring Fireball
 http://daringfireball.net/2012/01/ibooks_author_file_format

湯川鶴章さんの記事リンクを追記 [2012-01-21 22:00]
Appleの教育関連ソフトは教育、出版の何を変えるのか【湯川】 |TechWave 2012年1月20日
 http://techwave.jp/archives/51725582.html

鎌田博樹さんの記事リンクを追記 [2012-01-22 08:55]
ジョブズの遺産:iBooks新戦略をめぐる7つの問い |EBook2.0 Magazine
 http://www.ebook2forum.com/members/2012/01/seven-questions-about-ibookauthor/

出版社がとるべき選択肢は、基本的にはよりEPUB純正にフォーカスすることだ。EPUB3からはみ出た部分に意味があるならば、iBooks AuthorやKindleGenに変換して、それぞれのフォーマットで出版して出せばよい。つまり、「アップルのものはアップルに、アマゾンのものはアマゾンに」ということだ。次に、独自に出版し販売する方法を確保するために、はみ出した部分をEPUB3に取り入れて標準にしてしまえばよいのである。

[2012-01-23 20:37追記]
関連して記事を市川せうぞーさんも書いてくれます(寄稿記事)。やっぱり InDesignのEPUBは使い物になりませんか…。
InDesignは電子書籍の中間ファイルたり得るか?(市川せうぞー)| ITmedia eBook USER
 http://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1101/19/news056.html

[2012-02-07 07:46追記]
@commonstyle氏、こと境祐司さんのツィート(#iBooks2)が参考になります。
@commonstyle 氏のiPad向け電子書籍作成ソフト「iBooks Author」リリースに関するツイート。
 http://togetter.com/li/244365

[2012-02-08 11:07追記]
インクナブラの上高地仁さんが実制作にあたっての問題点など、有益な情報を公開してくれています。たとえば、以下のようなものです(ブログ記事を元に一部編集・追記しました)。
▼iBooks AuthorはiPadでのみ表示できるドキュメントを作成するので、ドキュメント内で使えるフォントはiPad内にインストールされているフォント(iPadセーフフォント)だけ。つまり、実際に使えるのはヒラギノ明朝(W3・W6)とヒラギノ角ゴ(W3・W6)の4書体しかない。
▼iBooks Authorは電子書籍のオーサリングソフトではあるが、DTPソフトではない。ルビを振ることはできず、和欧間のアキも設定できない。もちろん禁則処理も指定できない。そういう意味では日本語は入力できても、日本語に対応しているとは言えない。

iBooks AuthorはInDesignとどう違うのか その1 レイアウト|誰でもできる電子書籍 iPhoneアプリ開発講座
http://denshi-shoseki.seesaa.net/article/247943885.html
iBooks AuthorはInDesignとどう違うのか その2 テキストスタイル|誰でもできる電子書籍 iPhoneアプリ開発講座
http://denshi-shoseki.seesaa.net/article/249972182.html

Comment(2)

コメント

TETSU

独自フォーマットや有償で販売するには制限があるとか、いろいろ問題が多いようですが、きっと対象としているユーザー層の違いが大きいと思います。
iBooks Authorは専門の出版社向けではなく、現場の教師向けなんだと思います。
専門家にとってはいろいろ機能が必要だったり、今まで使っていたツールとの連携は確かに大事ですが
今まで出版などしていないユーザー向けと考えれば、機能よりも使いやすさの方が重要です。
iPadのiBooks向けと対象を絞ることで、いままで出版と縁の遠かった現場の教師が教材を簡単に作れるようになるでしょう。
そう考えれば、まさに破壊のイノベーション的ですね。だとするとあまり専門家の意見をききすぎると失敗する可能性が高まるでしょうね。

川月

そうですね、たしかに今は教師向け(教育機関向け)な感じですというか、そう謳ってますね。
ただ、このモデルがうまく回り始めたら一般の書籍も巻き込まれるんじゃないかなという気もします。
もしかすると、一般の人たちも PowerPoint の代わりに iBooks Auther を使うようになったりして(妄想)。

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