松武秀樹氏が語る電子音楽30年史
日曜日、Apple Store銀座で行なわれた、松武秀樹さんのトーク&ライブイベントに行ってきました。DTMerにとっては神といっていい存在。
ポッドキャストサービスのキャスタリアが、金羊社の音楽プレイリストサイト「ミュージックシェルフ」が共同で提供するポッドキャストショー「producers」シリーズの第1回ゲストとして松武秀樹さんが登場。その記念講演、というわけ。
このイベントは2部構成で、最初はテクノビートを扱うシンセサイザープログラマーとして今年で30年というのを記念して、自身の30年史を語るというもの。第2部は、Logic Systemとしてのライブでした。
トーク部分は非常にしっかりした構成:
・YMO結成から30年 ― つまりテクノ30周年記念
・コンピュータと音楽 ― Macと松武氏の出会い
・モーグ博士との思い出 ― モーグIII-C
・我が私的プログラマー史
・ユニット"ロジック・システム"再始動!
というテーマのもとにスムーズに進行していきます。司会の人が、非常に細かなデータや当時の記録を丹念に掘り起こしつつ、松武さんが軽妙に、率直に当時の思い出を語っていきます。
あまりの知識に、なんだ、この人は、と思っていたら、後で分かったのが、司会は「電子音楽 in JAPAN」の著者、田中雄二さんだったんです。道理で! ブログも読んでいるのに気づかなかったとは。
では、松武さんのトークから印象に残ったポイントを列記:
・MC-8のプログラミングは数値入力するわけだが、それにはコツがある。感性を音の三要素に置き換えて数値化する
・MC-8はロードに実時間がかかる。打ち込みは2日かかった。スタジオをそのために借り切ることができた。いい時代
・ライブでは機材トラブル、曲のロードなどへの対応でMCがうまくなるという副産物
・抽象的な言葉を音に置き換えること。鈴木慶一から、トタン屋根に硫酸が溶けている音を出してくれと言われて、ジュウッという音を出したら「これこれ」と
・キーボードプレーヤーでシンセに詳しい人は少なかった。坂本龍一は数少ない例外。ギタリストのほうが所有者が多かった。故・成毛滋とか
・早打ちマックとのあだ名をつけたの高橋幸宏。MC-8の入力スピードから
・シンセはモノマネ楽器じゃない。自分の楽器を作るのだ
・8ビットと16ビットの違いは人が聴いて分かるが、16ビット以上はよほどオーディオファンでいい機材を持っていないと分からない。鳥肌が立つのはビットじゃない
・自作のサンプラーLMDは8ビットだけど、エキサイターをかませば今でも使える
・日本の3大電子楽器メーカーには奮起してほしい。もっともっと音楽を制作する方法を広げてほしい
また、SX-150に関しては、「どうしてもシンセには鍵盤がくっついているので弾けないから、と敬遠する人がいる。さわることで、ダイヤルを回すことで何かが起こる」と、鍵盤をなくしたことの意図を話していました。たしかに、だからこそ音色をいじる、というのはあるように思います。それは、DS-10も同じで、デフォルトだと意図的におもしろくない音にしておいているようです。ただ、DS-10の内蔵音色には松武さんが関わっているそうです(後で聴いた話)。
質疑応答があったので、1つだけ質問してみました。DS-10のようなソフトシンセのプラットフォームとしてゲーム機であるニンテンドーDSが使われているわけですが、楽器用プラットフォームとして見た場合、iPhoneはどうなのか?
松武さんによれば、既にそういうことを企画している人がいるそうです。ただ、iPhoneに向いた音楽ソフトということを考えるならば、普通の楽器というよりは違うものになるのではないかという予想。iPhoneにはネット機能があるわけなので、遠隔地のプレイヤーとセッションするとかいったことが可能になるかも、と話していました。iPhoneはまだ持ってないが、ほしい、とのことです。
トークの後で行なわれたライブでは、むとうありささんのボーカルで、前作「Everything Is In The Nature」から「Sayo~Salla(Everything Is In The Nature) 」と最新アルバム「TANSU MATRIX」から「 Hypnotize」の2曲が披露されました。
イベント終了後、松武さんに拙作のSX-150用棒フレットとシールマスキング鍵盤をお見せしたところ、面白がってもらえました。裏ぶたにサインをいただきましたよ。感激!