プロジェクト管理・ポートフォリオ管理ツールの活用方法を中心に、IT投資管理の考え方をご紹介して行きます。

サメに追いかけられれば、早く泳げるのか?

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CCPM(クリティカルチェーン・プロジェクト・マネジメント)は、ゴールドラッド博士が小説「クリティカルチェーン」で提唱したプロジェクト管理手法で、納期短縮を実現するための革新的な手法です。いわゆる学生症候群を排除するために、各期間見積りに埋め込まれたバッファーを取り除き期間を短縮し、全体の「集合バッファー」で進捗を管理します。例えばボーイング社・P&G社などではCCPMにより開発期間の短縮に成功しており、海外で普及が進んでいます。しかし日本ではあまり大規模なCCPMの成功事例を耳にしない気がします。

学生は夏休みの宿題を与えられても、いつまでたっても宿題を始めず、結局ギリギリになってからやっと取り掛かるため結局期限に遅れてしまいます。「今週はここまで」という短いスパンでマイルストンを設定する事で、学生は期限どおりに宿題を終わらせる事が出来るのです。そしてさらに各マイルストンをもっと手前に設定してしおけば、学生はスケジュールに追われて気がつけば当初の期限よりも早く宿題を終わらせるようになります。

プロジェクトを成功させるための重要なメッソドは、出来るだけWBSを詳細化してショートスパンで進捗を管理する事です。CCPMではさらに各タスクの期間を短縮する事で、現場に継続したプレッシャーを与えて期間を短縮します。

期間までにプロジェクトを終わらせるために、あるいは売上を達成させるために、企業経営者は現場にプレシャーをかける事で生産性を高めようとします。短期での目標が設定されている会社では、より現場に対して継続的なプレッシャーを与える事で高い生産性を上げる事が出来るといわれています。確かに四半期毎の営業目標しか設定されてなければ、最初の一ヶ月営業はのんびりしてしまいますが、毎週売上目標が立てられている企業では営業は馬車馬の様に働かされます。サメに追いかけられれば、人は早く泳ぐものです。

しかしプレッシャーにより失われれる生産性もあります。調査によると、米国で1980年代にリストラを行った企業においては、個人あたりの生産性は逆に低下したそうです。理屈の上では生産性の低い人間を減らし、現場にプレッシャーをかける事で各個人の生産性が上がりそうです、しかし実際にはそうでではありませんでした。ついにサメに追いつかれてしまうと、人はとたんにちゃんと泳ぐ事ができなくなってしまいます。

それでは、ギリギリの距離感でプレッシャーを与え続ける。つまり一定感覚でサメに追いかけさせれば、現場は継続した生産性が実現するような気もします。しかし現実はそうではありません。継続的にプレシャーを与えられた現場は、かならず疲弊が生じます。例えば短期的な売上のために顧客に押し込み営業をかけてしまい、顧客との関係が冷め切ってしまう。今月の売上のために営業が自分で自社製品を購入して、影でディスカウンターに流す。そんな事例は誰もが知っています。毎週の顧客との電話時間をトラッキングされている電話営業の友人は、自分の携帯に電話して通話時間を稼いでいました。結局は継続的なプレッシャーは現場を疲弊させ、長期的には生産性を低下させるものです。

勤勉でモチベーションの高い日本人は、プレッシャーをかけてもそれほど生産性が上がりません。特にソフトウェア開発やITビジネスに関わる知的労働者で構成された健全な組織は、そもそもモチベーションが非常に高いためプレッシャーをかけても僅かな生産性の向上しか見られません。それよりも、さらにモチベートする方がより高い生産性を引き出します。自分が最初に働いてた企業では四半期毎に、社員の10%くらいを表彰していました。実は大した景品などありませんでしたが、褒められる事で人は大きくモチベーションが高まります。年間売上げトップの人間を表彰するために自分たち主催者が準備したセレモニーは、ピンク色のキャデラックのオープンカーで、表彰者の両脇にコンパニオンを載せて表彰会場に送りこむというかなり馬鹿馬鹿しいものでした(笑)

生産性向上のために、現場にプレッシャーをかけ続ける会社は、社員も会社も不幸にします。日本では、モチベーションに対して投資する方がより高い生産性が実現出来るように思います。学生に期限までに宿題を終わらせてもらう最も良い方法は、早く終わった学生から順番に皆の前で大げさに表彰する事かもしれません。

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