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2016年のクラウドビジネスを振り返る

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2016年は、クラウドビジネス、大きく前進した年になりました。ポイントのみとなりますが、1年の動きをまとめてみたいと思います。

2016年は、クラウドそのものではなく、デジタルトランスフォーメーションというキワードに代表されるように、企業のデジタル化を推進するためのクラウド基盤という位置づけが強くなった年でもありました。

クラウドビジネスはIaaSそのものがコモディティ化し、各クラウド事業者が、IoTやAI・機械学習のプラットフォームとしてサービスの提供を本格的に開始した年でもありました。2017年はこの流れがさらに加速していくことになるでしょう。

クラウドファーストからクラウドノーマル化の動きが進み、企業の基幹システムの基盤としてのクラウドの採用が加速した年でもありました。企業の基幹システムの採用が進んだことで、これまでの仮想サーバーから、ベアメタル(物理)サーバーの採用が進んだ年でもありました。また、SAP HANAの基盤にクラウドの検討や採用する動きも顕著となった年でした。SAPのベストプラクティスのモデルを展開する基幹系に特化したVirtustreamの動きも注目されるところです。

また、パブリッククラウドやホステッドプライベートクラウドなど、複数のクラウドを適材適所で採用するハイブリッドクラウドやマルチクラウドの流れも加速しました。複数のクラウドサービスを効率的に運用管理を行うクラウドマネジメントツールの採用がガバナンスへの対応も注目され始めています。その一方で、ハイブリッドクラウドなどによる複数のクラウドを運用する際のセキュリティリスクやコスト面でも懸念されるといったケースも目につくようになりました。

予想以上に事業者間の協業も進んだ年でした。特に、市場を驚かせたのはこれまで競合関係にあった、VMwareとAWSとの協業です。AWSのサービスの上でVMwareの機能を実装する「VMware Cloud on AWS」の提供です。ガートナーが予測した2020年までにクラウドサービス事業者の70%の収益がパートナーやブローカー経由になると予測しているように、今後は、インテグレータやブローカーを通じたエコシステム形成や、グローバル規模でのパートナーアライアンスが、各社の戦略において重要な位置づけとなっていくでしょう。

AWSやMicrosoft Azureなど海外のクラウド事業者が市場を大きくリードした年でした。Google Cloud Platformの日本のデータセンターからの提供も大きなインパクトだったと思います。IBMはSoftLayerやBlueBoxなどのサービスをBluemixにブランド統合したのも印象的でした。

国内事業者は、パブリッククラウドでは海外勢との競争が厳しく、NTTコミュニケーションズやIIJ、富士通などがホステッドプライベートクラウドに大きく軸足をうつした年でもありました。NTTコミュニケーションズはミランティス、富士通はSUSEと協業いったように、OpenStackを基盤としたオープンなホステッドプライベートの展開も強化しようとした年でもありました。OpenStack Summit(バルセロナ+オースティン)では、盛り上がりをみせており、OpenStackは今後も一定の地位は確保しつつ、より上位レイヤのコンポーネントの機能強化が進んでいくでしょう。Azureの環境をプライベートクラウドで提供するAzureStackへの関心も高まった年でもありました。MM総研などが発表した調査では、パブリッククラウドよりもプライベートクラウドのほうが市場と成長性が高いという予測をしていることから、収益性の高いホステッドプライベートクラウドのサービス強化の動きが加速していくことになるでしょう。

PaaSの領域では、Dockerを管理するKubernetes、オープンソースのPaaS基盤ではCloud Foundry、そして、OpenShiftも注目された年でもありました。今後、IaaSの差別化が難しくなり、PaaSでの領域での競争が加速するでしょう。コンテナ系では、Rancherなどコンテナ管理ソフトウェアを提供する事業者の日本進出によるコミュニティの盛り上げも注目されるところです。

モード1 VS. モード2、SoR VS. SoE、トラディショナルICT VS. クラウドネイティブICTといったように、従来型の基幹系システムなどのクラウド基盤の採用と、俊敏なりソース変更が要求されるIoTのような基盤の双方に対応するバイモーダルITの流れも注目された年でした。今後、この流れはさらに加速することになりますが、トラディショナルな領域からクラウドネイティブへのシフトが急速に進むことになり、ユーザ企業も事業者も、クラウドネイティブへのシフトを想定したクラウドの採用や、サービスやソリューションの展開が重要となっていくでしょう。

インフラの領域では、これまでのSDNからSD-WANの環境への注目が集まり、クラウド+SD-WANで、レイヤ横断的にインフラ環境をソフトウェアで制御する動きが進んでいくでしょう。今後はインフラだけではなく、マネージドサービスやセキュリティサービスとの連携も進んでいくでしょう。

ハイパーコンバージドインフラにも注目が集まった年でした。市場をリードするNutanixが、KDDIやIIJとも提携しサービスやソリューションを提供する一方で、Dell EMC VxRail 4.0などの対抗製品も登場しました。

クラウド市場において、シェアを急速に伸ばす事業者が出てきた一方で、クラウド市場から撤退を選択する事業者も出てきた年でもありました。VMwareのvCloud Airの日本市場の撤退、HPEのパブリッククラウドからの撤退と、OpenStackなどの事業のSUSEの売却、シスコのインタークラウドの撤退などもありました。国産事業者では、KDDIのBiglobe買収の動きも話題となりました。2017年以降は、クラウド事業者の勝者と敗者がより鮮明となり、M&Aの動きが加速するとともに、クラウド市場からの撤退を余儀なくされる事業者も出てくるでしょう。

一方で、ソフトバンクと連携して、Alibaba Cloudの日本市場参入も記憶に新しいでしょう。Alibaba Cloudがどのように、日本市場に浸透していくのか、まだまだ不透明なところはありますが、2017年は台風の目となるかもしれません。

法制度面では、クラウドセキュリティの国際標準である JIS Q 27017が公開されました。また、EUでは、EUデータ保護規則(GDPR)の対応に向けて拘束的企業準則(Brinding Corporate Rules:BCR)の認証を取得する動きも出てきました。BCRの認証は楽天が第一号で、クラウド事業者ではIIJが取得を目指しています。2017年は、クラウド事業者のGDPRへの対応は重要なテーマの一つとなるでしょう。

AWSやMicrosoft、日本IBM等の主要クラウド事業者で、コアとなる人材が動いた年にもなりました。クラウドの創世記を創ってきた人が大きく動いたことで、これまでのクラウドの時代から新しい時代への大きくシフトしていく年にもなったと思います。

2017年のクラウドビジネスの動きも注目していきたいと思います。

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