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低下する日本の立地競争力と深刻化する空洞化

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日本経済新聞の4月25日の一面で「新寡占化時代 変わるグローバル競争」という記事の中で、中国でEMSのフォックスコンが、高機能携帯電話機、HPのパソコン、任天堂のゲーム機など世界有力メーカーから受託した様々なデジタル機器を製造している取り組みが紹介されています。フォックスコンのグループ売上高は、日本の東芝を抜き、パナソニックやソニーの規模に迫るまでの成長をしています。

巨大化するEMSは、デジタル・デフレを加速化し、日本の垂直統合モデルを押し流している点を指摘しています。電子機器生産高の3割を占めるEMSの寡占化が進めば、デジタル機器の価格は下がり、このままでは、新たなグローバル競争の波の中で、日本製造業は非常に厳しい状況におかれていくことが懸念されます。

経済産業省は4月23日、産業構造審議会産業競争力部会(第4回)を開催し、「アジア拠点化総合戦略(PDF)」を公表しました。本報告書の一部を少しとりあげてみたいと思います。

本戦略の中で課題としてとりあげられているのが日本の「立地競争力」です。2年前の調査と比べると、すべての昨日でアジアの中心として競争力を失っています。特に、従来は競争力を有していたアジア地域統括拠点やR&D拠点においても首位から転落し、アジアの中での地位が低下しています。

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日本の立地競争力低下の大きな要因として、ビジネスインフラの問題が指摘されています。諸外国が法人税を引下げているのに対し、日本の法人税負担は約40%で高止まっています。高度外国人材の割合も先進国最低、そして、空港・港湾等の国際競争力も大きく低下しています。

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諸外国での産業政策・企業誘致策については、ビジネスインフラの改善に加えて、特定の産業や機能など、ターゲットを絞った産業政策・企業誘致を積極的に展開しています。各国の取り組みは以下のとおりです。

  • 米国    
    次世代自動車用のバッテリー・部品製造等の工場立地費用を補助(50%補助)。
  • 英国    
    北東イングランドに低炭素自動車分野で「低炭素経済地区(LCEA)」を指定し、今後、R&Dセンター建設等に対する投資インセンティブ(補助金等)を検討中。
  • フランス    
    年間約500億円の特別財源を基に、コンテンツ開発、人材育成等を支援。また研究開発型新興企業等への法人税・不動産税等を8年間一部免除、統括機能を有する企業への減税により企業を誘致。
  • 韓国    
    未来の経済成長の原動力となる事業への集中投資を加速(グリーン技術、先端融合、高付加価値サービス等17事業に今後5年間で97兆ウォンを補助予定)。また、以下の優遇措置により外国企業・人材を誘致。高度技術を有する外国企業、外国人投資地域への投資に対して、法人税減免(所得発生後、当初5年間は100%、翌2年間は50%免除)。外国技術者への所得税減免(2年間50%)。経済的な効果が大きい投資を行う外国企業に対して、誘致機関等が交渉し、戦略的に補助金を支給。
  • シンガポール    
    革新的技術を有する企業への最長15年間法人税免除(パイオニア・ステータス)、統括機能を有する企業へのゼロから10%の法人税率適用(個別協議)、人材育成等への補助金等をツールとしてEDB(経済開発庁)が強力にグローバル企業を誘致。

また、日本企業の海外シフトも顕著になっています。経済産業省「我が国の産業競争力に関するアンケート調査」では、生産機能や開発機能を海外に移転する計画をたてている企業が、移転しない企業が上回っています。

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さらに、外国企業の重要拠点も他のアジア諸外国に流出しています。たとえば、P&G(米国)は、2009年にアジアの本社機能を神戸からシンガポールに移しています。また、製薬会社のノバルティス(スイス)は、2008年につくばの研究所を閉鎖し、上海のR&D拠点を強化しています。携帯電話メーカーのノキア(フィンランド)は、2009年に開発拠点を東京からシンガポールに移転しています。

日本の立地競争力強化に向けた対応の方向性として、アジアを中心とした新興国市場が急成長している中、日本の持続的成長を図るためには、日本企業の新興国需要獲得を促進すると同時に、日本国内における高付加価値拠点を維持・強化することが必要であるとしています。取り組みの方向性として以下の2点をあげています。

  1. 海外からの投資を戦略的かつ重点的に呼び込み、日本の強みに適合した高付加価値機能の集積を図る(「日本のアジア拠点化」)。
  2. スピード感ある大胆な制度改革等により、日本の事業環境の魅力の飛躍的な向上を図る。    
    ・国際的水準を勘案した法人実効税率の見直し      
    ・グローバル高度人材の育成・呼び込み【ヒト】      
    ・輸送・物流関連の制度改善・インフラ強化【モノ】      
    ・租税条約ネットワークの拡充【カネ】

日本へのデータセンターの誘致もそうですが、企業努力だけでなく、政策の後押しが重要となってくるでしょう。このまま、日本の立地競争力は低下していくのか、巻き返しをはかることができるのか、今後数年が大きな分かれ道となっていくのかもしれません。

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