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記者としての取材や編集者としての仕事の中から浮かんだふとした疑問やトピックをご紹介。裁判や企業法務、雑誌・書籍を中心としたこれからのメディアを主なテーマに、一歩引いた視点から考えてみたいのですが、まあ、精密でない頭の中をそのままお見せします。

名優・冨田靖子と田中哲司は、デリケートな社会問題をどう演じるか? 3月17日放映、NHK「もしも明日......家族の失業」

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*本物の夫婦のような息の合ったところを見せた、冨田靖子さんと田中哲司さん。

 ものごとがうまく行っているうちはいいが、具合が悪くなってくると、いろいろまずいことがあらわになってくる。

 会社がそんな状況に陥り、マネジメントがリーダーシップを示すことができない場合、そこは修羅場と化す。ただ首が切られるだけではない。恐怖に駆られたマネジメントは、徹底的に部下の人格を否定し、破壊する。

 私も、そういう場面をかいま見た経験者である。

ささいな仕事上の不都合をあげつらい、針を棒のようにして、「辞めろォ!」「辞めろォ!」と迫る、社長と常務の瞳孔は開いていた。完全に「逝っちゃって」いた。
実に貴重なものを見せてもらった。

 さて。 そのようにして不本意に職場を去らなければならない場合、その後どうするか。
 職業人として、それなりにコツコツ積み上げてきたはずの自分のプライドはズタズタにされている。会社から放り出されれば、次の仕事も探さなければならない。そして、家族を養わなければならない。だんだん追いつめられていく。

そんな微妙な心のひだまで踏み込むことは非常に難しいが、それに果敢に挑戦したのが、17日夜9時15分からNHK総合テレビで放送される「もしも明日......家族の失業」だ。 ある地方都市に住む家族。夫(田中哲司)が突然、勤め先から解雇される。妻(冨田靖子)は夫を支えようとするが、家庭の切り盛りや将来への不安から、完全に夫を支えようという決心がつかない。そのうち、自分たちの親も口を出してくるようになって......。

 昨年12月、東京近郊のマンションで行われている撮影をのぞく機会があった。 冨田靖子さんは、そのころ放映が終了した大河ドラマ『江』の春日局役で、「怪演」と言えるほどの鬼気迫る存在感の演技が話題になっていが、「母親の役は久しぶりで、子役との触れ合いもあって楽しいです」 と語る。その表情は、かつて『アイコ十六歳』『さびしんぼう』で見せていた、ナチュラルなものだった。
「役者は常に"失業している"ようなものです」 とつとつと語るのは、夫役の田中哲司さんだ。舞台の経験が長いが、大げさな表現に頼らず、抑えた表現で内面をあらわす演技に定評があり、最近は映画やテレビに多数進出している。『龍馬伝』の徳川吉宗や『ハッピーフライト』のチーフ整備士役、最近では缶コーヒーBOSSの「宇宙人ジョーンズ・医師編」での役人。非常に短いのに強く印象に残る。
「身につまされるテーマで、セリフが自分に返ってくるようです。生臭い感じです。ドキュメンタリーに負けてはいけないと思っています」 

以前紹介した「もしも明日......」では虐待、ほかにも葬儀、離婚という、テレビでは真っ正面から扱いにくいテーマを、今回もドラマとドキュメンタリー、スタジオでの討論というかたちでうまく取り上げているこのシリーズ。スタジオ討論は有働由美子アナウンサーと原田泰造、連ドラ「カーネーション」での演技が話題になったほっしゃん。とノッチ夫妻がトークを展開する。

「もし、自分が本当に妻の立場になったとしたら、夫の再就職を待てるかどうか迷ってしまうかもしれません。でも、家族が力になると思ってもらえたら......」 これが、悩みながら妻の役を演じる冨田さんからの、視聴者へのメッセージだ。

 ■『もしも明日...』家族が失業したら

3月17日(土)21:15~22:20(NHK総合テレビ)
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