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【連載】AI組織の要諦 第1回「設計」― AIは調達できるが、組織は調達できない

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▫️連載をはじめるにあたって

この数か月、AIと組織をめぐる調査、白書、報道、企業の不祥事を、組織人事の立場から読み解いてきました。労働経済白書、Korn Ferryの世界調査、AIで仕事が増えるという6つの調査、ニデックとプルデンシャル生命の問題、そしてForbes JAPANに掲載された一連の寄稿などです。

題材はばらばらでしたが、読み終えるたびに、同じ結論にたどり着きました。AI活用の成否を分けるのは、ツールの性能ではなく、人と組織の設計だ、ということです。

そこで、これまでの論考の集大成として、AI組織に必要な要諦を、全3回の連載にまとめます。

・第1回「設計」:業務、役割、権限を、AI前提で組み直す
・第2回「制度」:指標と評価が、行動と文化をつくる
・第3回「人」:浮いた時間と学びを、意図して設計する

第1回のテーマは「設計」です。

▫️なぜ「設計」から始めるのか

Forbes JAPANに掲載された寄稿「すべてのCEOが同じAIを買える時代、模倣できないのは『組織設計』だ」(2026年10月15日)で、筆者のCharisma Glassman氏は、過去2年間に出席した多くの取締役会でのAIの議論が、ほぼ「調達」の話に終始していたと述べています。どのモデルを選ぶか、どのプラットフォームを入れるか。競合同士が同じ選択をしていても、それが競争優位になるのかを問う人は、ほとんどいなかったそうです。

競合は、同じAIを数週間で導入できます。だからこそ、他社が真似できないのは、AIを中心に組み直した業務と組織のほうです。AIは調達できますが、組織は調達できません。これが、第1回の出発点です。

この連載では、設計の要諦を4つに整理します。

▫️要諦1:「何を入れるか」の前に、「何を解決するか」を問う

Snowflakeの公式ブログ(2026年9月29日)は、官公庁・公的機関のAI活用の教訓を紹介しています。防衛・政府サービス企業Leidosのデータ・アナリティクス責任者は、チームに「どのツールが欲しいか」と尋ねるのをやめ、「何を解決しようとしているのか」を尋ねるようにしたそうです。エージェントが本当に必要なのか。自動化だけで足りるのではないか。プロセスの見直しで済む話かもしれない。この問い直しが、課題に合った解決策を選ぶ規律を生んだ、と紹介されています。

日本生産性本部の「働く人の意識調査」(2026年7月実施)を取り上げた日経BPの記事では、職場にAIが導入されている割合は、従業員1,001名以上で54.0%、100名以下で14.2%でした。導入の差は大きいものの、私が日々のご支援で感じるのは、差を生むのはツールの有無よりも、組織側の準備だということです。誰が推進するのか、現場が安心して使えるルールがあるか、使いこなす人が育つ仕組みがあるか、経営が「何のためのAIか」を語れているか。

現場の要望を、ツールの導入要望として受け取るのか、業務課題として受け取るのか。この受け止め方の違いが、パイロットが乱立するか、本番に進むかを分けます。

▫️要諦2:タスクに分解し、役割を組み直す

AIは、仕事を「減らす」のではなく、「移す」ものです。

Korn Ferryの「Workforce 2026」(2026年9月、日本を含む11市場、1万6,000人超)では、62%が直近2年で仕事量が大幅に増えたと答え、約6割が複数の職種の責任を兼務していました。Korn Ferry自身も、AI関連のタスクを既存業務に足すのではなく、人が得意なこととAIが得意なことで、職務そのものを再設計すべきだと指摘しています。

日本企業の人員構成を見ると、この再設計はさらに重要になります。マーシュマーサーのコラム(2026年10月8日)は、総報酬サーベイをもとにした市場データ(Workforce Insights)で、人員構成を8か国で比較しています。
・管理職層:日本26.0%(8か国中1位)/米国20.8%
・専門職層:日本57.8%(8か国中1位)/米国40.5%
・サポート層:日本15.2%(8か国中最下位)/米国37.3%
(参加企業ベースの市場データで、国全体の実態そのものではありません)

コラムは、職務要件やポストが曖昧なまま運用されることで、高単価の管理職やシニア層が、定常業務や調整業務を抱え込みやすくなると指摘しています。

ここからは私の解釈ですが、サポート層が薄く、高単価の層が定型業務を担っているとすれば、AIで効率化できる余地は、現場の末端ではなく、むしろ管理職や専門職の仕事の中にあるのかもしれません。ただし、それは仕事をタスクに分解し、役割を組み直して初めて見えてきます。

Forbesの寄稿は、機能部門はもともと「容れ物」として作られたもので、今のままでは存続しないと述べています。財務、人事、調達などの役割は、集計から、判断や監督へ変わる。そして、価値は部門の内側よりも、部門間の「継ぎ目」で失われやすい。タスクの分解は、部門の中だけでなく、部門をまたいで行う必要があります。

▫️要諦3:名前のある人間のオーナーと、権限を決める

設計の3つ目は、権限です。

Forbesの寄稿は、ボトルネックはモデルの品質よりも承認プロセスの多さにあるとし、自動化されたプロセスには、成果に責任を持つ、名前のある人間のオーナーが必要だと述べています。

Forbes JAPANの別の記事(2026年10月8日)では、米国のAIサミットで、AIエージェントの「憲法」(行動規範)が議論されていました。登壇者の一人は、従業員に使っている目標管理の仕組みを挙げ、AIにも目標を置き、細かく分け、測ればよいとしたうえで、ほとんどの組織はそのレベルの定義すらしていないと指摘しています。

デル・テクノロジーズの調査(2026年9月)でも、今後2年以内に強化したい対策として、AIエージェントのトークン管理・利用制御が35.6%で2位に入っていました。

AIに何を任せ、どこまでの権限を与えるか。これは、人に対して職務と権限をどう割り当てるかと同じ問いです。私は、AIにも、人と同じ4点の設計が必要だと考えています。
・誰が責任者か(オーナーシップ)
・何を任せ、何を人が判断するか(権限の範囲)
・何を成果とみなすか(目標と評価)
・今、何が動いているかを誰が把握するか(可視性)

同時に、承認の段数そのものも見直す必要があります。AIで処理が速くなっても、承認と引き継ぎが従来のままなら、全体の速度は上がりません。

▫️要諦4:組織のAIを、見える状態にする

設計の4つ目は、可視性です。

先のAIサミットで、AI Leadership InstituteのCEO、ノエル・ラッセル氏は、AIを「赤ちゃんのトラ」にたとえました。かわいらしく、誰もが気に入り、制御しやすい。経営幹部は、仕組みを十分に理解しないまま「無害な小さなAI」を大量に導入しがちで、最大の課題は、自社の業務、開発者が作るエージェント、委託先が作ったものについて、可視性がまったくないことだと述べています。

デルの調査では、被害拡大の起点として注意すべきものに、シャドーAIや無許可のAI利用が14.7%で挙がっていました。

現場が便利なエージェントを作り、外部ベンダーが納品し、気づけば誰も全体を把握していない。人の組織で言えば、組織図も職務記述書もないまま、業務を担う存在が増えていく状態です。AIの棚卸しは、人事が普段行っている「人員と役割の把握」の延長線上にあります。

ただし、シャドーAIは、禁止では減りません。現場が使いたくなるのは、業務で成果を出したいからです。安全に使える環境を用意し、ルールを現場と一緒につくることが、結果的に可視性を高めます。

▫️設計は、人事の仕事である

4つの要諦を、人事の言葉に置き換えると、次のようになります。
・何を解決するかを問う:経営戦略と人材戦略の接続
・タスクに分解し、役割を組み直す:組織設計、職務設計、要員計画
・オーナーと権限を決める:職務と権限の設計、意思決定の仕組み
・AIを見える状態にする:人員と役割の把握、ガバナンス

AIの導入は、IT部門の仕事に見えます。しかし、その成否を決める設計の多くは、本来、人事が担ってきた領域です。要員計画は「人を何人置くか」から、「人とAIで、事業成長を支える組織をどう設計するか」へ。この転換を、人事が主導する時代になっていると私は考えています。

▫️留意点

・本稿で引用した寄稿やベンダーの調査は、筆者や企業の主張を含みます。数値や事例は、各出典の条件のもとでのものです。
・マーシュマーサーの市場データは参加企業ベースで、国全体の実態を示すものではありません。
・「AIで効率化できる余地は高単価層にある」という見方は、データからの私の解釈で、個社ごとの業務分析が前提になります。

▫️自社で点検したい問い

1. AIの議論が、ツールの調達に偏っていないか。
2. 現場のAIの要望を、業務課題として受け止める窓口と基準があるか。
3. 管理職や専門職の仕事をタスクに分解し、AIと人の役割を見直したか。
4. AIが担う業務に、名前のある人間のオーナーがいるか。
5. 承認プロセスが、AI活用のボトルネックになっていないか。
6. 委託先が作ったものも含めて、組織のAIを一覧で把握できているか。

▫️次回予告

設計を整えても、それだけでは組織は動きません。人は、何で測られ、何で評価されるかによって行動を変えるからです。第2回は「制度」。グッドハートの法則、ニデックとプルデンシャル生命の事例を手がかりに、指標と評価が行動と文化をつくる仕組みを考えます。

AI活用の本質は、人と組織の変革にあります。その第一歩は、AIを調達することではなく、組織を設計し直すことです。

▫️参考

Forbes JAPAN「すべてのCEOが同じAIを買える時代、模倣できないのは『組織設計』だ」(2026年10月15日)
Forbes JAPAN「人間はAIを制御できるのか? 急加速するAIエージェント時代と構造的ジレンマ」(2026年10月8日)
Snowflake「ミッションAIのスケーリングに向けた3つの教訓」(2026年9月29日)
日経BP Human Capital Online「AI導入率『54%』と『14%』、大企業と中小企業の差は約4倍に」
Korn Ferry「Workforce 2026 Report」(2026年9月8日)
マーシュマーサー コンサルタントコラム「日本企業の要員計画を高度化する組織設計の視点」(2026年10月8日)
TECH+「AI活用企業の84.7%がセキュリティリスク増加を懸念、93.4%がエンドポイント対策重要と回答」(2026年9月29日)

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