彦根講演「平凡寺と「我楽他宗」」8
家族の迷惑
で、このような人であったわけですが、いよいよ、こういうとんでもない人がいると家族にいかに迷惑をかけるかという話に入って行こうかと思います(笑)。
また写真16を見ていただきますが、これは平凡寺の奥さんで、喜代子と言います。僕の祖母にあたります。面白い偶然ですが夏目家の祖母も鏡子(きよこ)です。こちらは「鏡」です。さらに、これは偶然かどうかわかりませんが、夏目方のお祖父さんが書いた小説のお手伝いさんも「きよ」ですね。で、僕がちっちゃい頃、母が仕事でいないときに世話してくれた女中さん、お手伝いさんも「きよちゃん」でした。だからどうしたという話なんですが。僕は「坊ちゃん」じゃないので、二階から飛び降りたりはしませんけども。
背後に見えるのがさっき言ってたあばら家です。歌舞伎に出てくるお化け屋敷みたいなもんですよ。わざとバラバラにしてあるんですからね。古くなってこうなったわけじゃない。そこに自分の奥さんを綺麗な格好をさせて写してる。どういう趣味なのか、本人じゃないと分りません。この奥さんが石膏のなかの“うんこ”を掻き出してた人です。大変だったと思いますよ。確かお坊さんの娘さんで、伯母なんかに聞いたらとてもまじめないい人だったわよと言ってました。かわいそうに(笑)。
平凡寺という人は発明もするわけです。しなくてもいい発明をする。たとえば僕が聞いたのでは、瓢箪を買い込んできて乾かして、穴を開けてパイプにする。紙巻タバコを瓢箪につけて吸うんです。結構大変だったらしいですね。肺活量がいると言うか。要するに瓢箪の乾いた繊維をフィルターにしたんでしょう。実際作って銀座のタバコ屋店に卸していたらしいですよ。多分、売れなかったと思います。売れたって話聞いたことがないですからね、この人。
もうひとつ僕が聞いたのでは、焼け筆という発明。これは筆状の物の先にプラチナを仕込んで熱いガスを送り込み、木の上にものが書けるようにした。つまり直接その筆で彫るように木を焼いて、木の上に字を書いたり絵を描いたりする。かなり見事な絵や字になった木を額にしたものを僕持っています。僕の寝室の上にかかっていますけれど、なんか夢見が悪い気がするけど(笑)、平凡寺は絵も、字もうまいですからね。ただ焼け筆の問題は、非常に扱いが難しかった。ちょっとでも筆が止まると焼き付いちゃうらしい。
そういう人なんでしょうね。発想はいいのかも知れないけれど、どっか変。しかももっと問題なのは、熱い空気をどっから送り込むかということです。筆にチューブが付いてる。後ろからふいごを吹いてチューブに送り込む人がいる。これが奥さんなんですね(笑)。迷惑な話なんですよ。一人でできないんだから。結局人に迷惑をかけることになるような人ですね。
でも、面白いからしょうがない。夏目家のほうはともかく、三田家はの血だと、とりあえず面白いから許してしまうという風な家系であるような気がします。まあ、お陰で僕も生きてこれたのかもしれませんが。