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夏目房之介の「で?」

ダビッド・ベー『大発作』

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ダビッド・ベー『大発作 てんかんをめぐる家族の物語』(監修 フレデリック・ボアレ 訳 関澄かおる 明石書店)フランスのオルタナ系BDである。てんかんの発作をおこす兄と、彼を救おうと自然食療法や宗教的共同体など、あらゆるところに頼る両親と、その中で育つ弟と妹。その弟が、じつは作者で、これは自伝的なマンガである。そのシュールでアーティスティックな表現と、主題の深刻さと、率直さ。これは凄いです。世界的に注目されてるっていうのも、よくわかる。じつは、さきほど紹介したペン誌で、僕と並んで世界のコミックを推薦しているティエリー・グロンスティン(仏)、スコット・マクラウド(米)が、ともに押している作品でもある。何よりも、病気の息子をもつことで宗教的になっていかざるをえない両親と、それでもなお絶望に傾斜してゆく家族、そしてそこから表現に向かうしかなかった作家自身がそれらを描写するときの表現衝迫の強度は、ちょっと凄い。378pで3800円は、たぶん安いよ。

追記

漫棚通信さんの「ダビッド・ベー『大発作』の難解さと普遍性」参照のこと。

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