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夏目房之介の「で?」

映画『パラダイス ナウ』

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MYさんのおすすめで映画『パラダイス ナウ』観てきた。滅多にこういうマジメな映画観ないんだけどね。
http://www.uplink.co.jp/paradisenow/

パレスチナの廃墟だらけのイスラエル占領地域に住む二人の青年が、テルアビブに自爆テロに向かうまでの48時間を描いた映画で、その主題からすればすごくシリアスで重苦しい映画を想像するかもしれない。が、

たしかに「地獄も同じだ」と登場人物にわれる占領地の荒れた雰囲気があるにせよ、淡々とした日常描写はけして暗い色調でも、胃の痛くなるようなドラマややりとりがあるわけでもない。そこが、多分この映画のいちばんいいところで、どんなに過酷な戦争下であっても日常は日常である、という観点がブレていない。
青年たちは、ごくふつうに仕事をし、クビになり、不満を抱き、女性に触れ、イスラエルに対する闘い方で議論もするが、それもふつうの日常である。
そして、二人は選ばれて自爆攻撃に向かう。多分、ほんとにこんなふうに「日常」の線上でテロはおこなわれるんだろうと思わせる。彼らは英雄でもスーパーマンでもマッチョでもない、ただの青年たちだ。
パレスチナとイスラエルの問題に詳しいわけではないので、随所に「多分もっと知ってればわかるんだろうな」と感じるところもあるが、それらを気にしないでもふつうに見られる「面白い映画」だといっていいだろう。
この映画はずいぶん賞をもらっていて、なんとアカデミー外国映画部門にもノミネートされている。「自爆テロを肯定する」としてイスラエル人が米国で上映反対運動をしたらしいけど、もしその主張がホントに「自爆テロ肯定」を理由にしているなら、どう考えてもいいがかりである。あるいは映画の見方を全然知らないか、どちらかだ。この映画では、テロを肯定も否定もしていないし、だからこそ優れた映画になっている種類のものだと思う。

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