【Book】『ウェブはグループで進化する』
ウェブはグループで進化する ソーシャルウェブ時代の情報伝達の鍵を握るのは「親しい仲間」
- 作者: ポール・アダムス、小林啓倫
- 出版社: 日経BP社
- 発売日: 2012/7/26
タイトルだけを見れば、多くの人にとって異論の挟む余地はないだろう。個人的にもFacebookが本当に面白くなってきたのはグループという機能が付いてからだったし、ブログにしてもHONZというグループに入ってから手にしたものは、計り知れないものがあった。
その背景には、かつて文書を結びつけるものであったウェブが、人を中心とした構造へ変化したということがある。いくら良いコンテンツであっても、人の手を介して伝達されなければ情報は拡散されないし、逆もまたしかりだ。
著者は、かつてGoogleでGmailやYouTubeなど様々なプロダクトに関わった人物。彼の研究が基礎となってGoogle+のサークルという概念も生まれたのだという。しかし、その成果をまとめた"Social Circles"という題名の本を発表する直前に、著者自身がGoogleからFacebookへと移籍してしまう。本書はGoogleから差し止められたものを、改めて書き直し出版されたという、いわく付きの一冊なのだ。
ページをめくっていくと、何箇所か手の止まるところがある。それはウェブの定説とも言える二つの理論に対する、強烈なアンチテーゼとなっている部分だ。
一つは、大きな影響力を持つインフルエンサーを発見し、メッセージを根付かせるということへの否定である。インフルエンサーに頼る手法というのは、リスクが高く信頼度の低い戦略であると主張する。
もう一つは「弱い紐帯の強み」として注目されてきた「弱い絆」から「強い絆」への原点回帰だ。私たちが行うコミュニケーションの80%は5人から10人程度の決まった人々を相手に行われているという研究結果なども紹介されている。
つまり、ソーシャルネットワークは独立したグループが結びついて形成されており、非常に影響力のある人物を探し求めるより、無数に存在する小規模のグループに注目し、彼らに焦点を合わせて戦略を練り直すべきであるというのが本書の骨子だ。
自分の思い込みも手伝って、ここの部分の咀嚼には若干の時間を要した。ただ思い返せば、確かにそういう流れへの兆しは見受けられる。一つは、電話帳というソーシャルグラフに紐づいたLINEの急成長である。また感覚的なものかもしれないが、FBのニュースフィードのアルゴリズムも6月くらいからこの方向へ舵を切ったのではないかと感じている。
突き詰めると本書で問われているのは、ネットにおける情報の拡散力とは何かということである。著者は、情報の受け手としての個人を、単体としてではなく、いくつかのグループのハブと捉えている。このように捉え直すと、流す情報のメッセージやベクトルというものも大きく変わらざるを得ないだろう。
マスメディアによる情報伝達が空爆のようなものなら、インフルエンサーによるミドルメディアの台頭というのは、誰もが簡単に空爆が出来るようになったということを意味していたと思う。一方で、本書に書かれているのは、非常に泥臭い地上戦のような部分である。
これだけ個の力が注目される時代でありながら、地上戦のメカニズムについて書かれた本というのは、なかなかお目にかかれない。しかも、遠くを見据えるためには身近なものに着目する必要があるなど、なかなか含蓄のあるメッセージである。情報発信を行う人なら、誰にとっても示唆に富む内容になっているのではないかと思う。
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