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【書評】『眠れない一族』:読んだら眠れない・・・

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著者: ダニエル T.マックス
紀伊國屋書店 / 単行本 / 358ページ / 2007-12-12
ISBN/EAN: 9784314010344

タイトルだけ見ると上品なミステリーかと思わせるのだが、副題に「食人の痕跡と殺人タンパクの謎」とある。これだけで只ならぬものを想像させるのだが、中身を読むとさらに尋常ではない。このメディカル・ミステリーはしかも、ノンフィクション。”事実は小説より奇なり”を、地でいく一冊である。
本書でテーマになっているのは、狂牛病などでおなじみの「プリオン」というタンパク質である。プリオン病は、遺伝性、偶発性、感染性という三つの形態を取る、唯一の病気なのである。これが、プリンだったらどんなに良かっただろうと、何度も思わせる恐ろしさだ。

冒頭、イタリアのとある一族を襲った遺伝性の病の話から始まる。この一族の家系は、大多数が原因不明のFFI(到死性家族性不眠症)という難病で命を落としていく。中年期になり発症すると、眠りを奪われ、異常な発汗が始まり、瞳孔が収縮し、首から上がこわばって歩行やバランスを取る能力も失われていくのだ。最大の悲劇は、思考力だけが無傷で残ることである。眠りを切望し、やっと眠りに到達した時には、永遠の眠りにつくという、なんとも皮肉な運命である。

偶発性の例として登場するのは、パプアニューギニアのフォレ族という未開部族である。たった50年前まで食人を行っていたこの部族に、クールーという病気が流行し、その多くは震えが止まらなくなり、やがて発作をおこして命を落として行く。本書の後半で、食人とクールーの関係も解明されていくのであるが、プリオン病に罹りにくい人の祖先は、過去(約90万年前)に食人を行っていた人種であるという事実も発覚する。食人=プリオン病の原因という単純な話でもないのである。

感染性の例では狂牛病の根本的な要因でもある、羊のスクレイビーという病気が紹介されている。これは近親交配によって引き起こされているのだが、元をただせば人間の羊毛、羊肉に関する商売上の野心が生み出したものであるということがわかる。これには、何とも言えない複雑な気持ちにさせられる。

これら三種類の病気に罹った人達のほか、周囲の人、研究者に至るまで、目の離せぬ登場人物ばかりである。その登場人物たちが、複雑に絡みあいながら、なぜか解明に向かっていく流れは、実に見事である。ただしこの問題、タンバク質の折り畳まれ方に要因があるということは分かっているのだが、根本的な解決には未だ到達していない模様である。

読むだけで眠れなくなりそうな、驚愕のノンフィクションである。


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