本社トップダウンで戦略を策定する外資系企業でも、日本で戦略が必要な理由
先週金曜日のオルタナティブ・ブロガー会議の忘年会で、出た話題です。
世界はますますフラット化し、小さくなってきています。
そこで最近のグローバル・カンパニーは、全世界をカバーする戦略を策定して、その戦略を各地域で展開するようになりました。
これを日本の外資系企業に当てはめると、戦略は本社で策定し、日本でその戦略を実行することが求められる、ということになります。
「このような時代、各地域で立てる戦略には、意味があるのか」ということを議論しました。
これは実際に、日々身を以て体験しているテーマですね。
結論から言うと、外資系企業で本社が戦略を作っていても、日本でも戦略が必要です。
たとえば現在のIBMの基本戦略は、SMARTER PLANETです。
SMARTER PLANETは戦略であるとともにビジョンでもあり、マクロな視点で、お客様の課題を定義したものです。
これがさらに業界別・テーマ別に分れ、各々の課題への解決策が定義されています。
実はSMARTER PLANETのような概念自体は、IBMの中では全く新しい概念ではありません。
1990年代に提唱した「eビジネス」、その後提唱してきた「オンデマンドビジネス」、「イノベーション」が進化した延長線上にあります。
私が所属するソフトウェア事業でも、このSMARTER PLANET戦略をいかにソフトウェアの立場で実現していくかという観点で、グローバルでソフトウェア事業戦略を定義しています。
SMARTER PLANETを実現するためには、様々な仕組み・仕掛けをソフトウェアで構築する必要がある訳で、ある意味で、ソフトウェアはSMARTER PLANETの根幹にあります。
このSMARTER PLANET戦略とソフトウェア事業戦略、IBM社員の私が言うのも手前味噌ですが、詳細に理解すると、とてもよくできています。
また日本のお客様の現状の課題に対しても、有効な解決策を提示しています。
最近、IBMのSMARTER PLANET戦略とソフトウェア戦略、及び日本市場の現状分析・お客様の課題と、お客様にとっての意味、日本での展開について、講演させていただく機会をよくいただきます。
おかげさまで、多くの場合、お客様から高い評価をいただき、「IBMのソフトウェアをもっと知りたい」というお言葉をいただきます。
一方で、各地域では様々な事情があります。
よく、「日本は世界の他地域と違う。グローバルで立てた戦略は有効ではない」という指摘がありますが、これは、一部当たっていて、かなりの部分ははずれています。
前半の「日本は世界の他の地域とは違う」、確かにそうです。
しかし、日本だけが特殊なのではありません。中国も、韓国も、ドイツも、フランスも、ブータンも、ガーナも、世界の他の地域とは異なります。
各地域がそれぞれ違うことは当り前です。この違いを自分達でどのようにするのかを考えることが必要なのです。
後半の「グローバルで立てた戦略は有効ではない」という指摘、確かに、中には日本で適用できないようなグローバル戦略もあります。
しかし一方で、グローバルで立てた戦略が消化不十分なまま、このように言っているケースも結構あります。
グローバルで立てた戦略を十分に咀嚼して理解し、かつ日本で適用できる部分と修正が必要な部分を認識して、展開していくことが必要なのです。
このことは、映画の製作に例えると分りやすいかもしれません。
本社で策定した戦略は、映画のシナリオに相当します。
そして、映画はシナリオに沿って作っていくことが基本的です。
しかし、シナリオだけでは映画は作れません。
シナリオをベースにして、配役や撮影現場の良さを引き出して映画を作っていくことになります。
これを実行するのは、プロデューサーだったり、映画監督になります。
戦略は立案するだけでなく展開して始めて意味がある、と考えると、各地域の戦略担当やマーケティングマネージャーは、このプロデューサーや映画監督に相当すると考えれば分りやすいかもしれません。
古くは大化の改新、最近では明治維新、終戦直後の頃の日本は、海外から貪欲に学び、海外のよい部分は日本のよさと積極的に同化させていきました。
考えてみると日本人の得意分野です。
日本のよさと、グローバル企業のよさを活かした組合わせをいかに作り、世の中をよりよくしていくかを考えていくことが、私のような外資系企業に勤めるビジネスパーソンが果たすべき役割なのかもしれません。