IT業界におけるマーケティング、あるべき姿
吉川さんのブログと鶴田さんのブログで、IT業界のマーケティングについて議論されています。
まさに私自身が日々取組んでいることなので、あくまで私個人の考えということで、考えをできるだけ整理して述べたいと思います。
IT業界のマーケティングを整理する次元は、大きく分けて二つあると考えています。
- セグメントの次元:B2Bか?B2Cか?
- フェーズの次元:市場インサイト⇒戦略⇒プロモーション/アウェアネス/チャネル・エネブリング
私はソリューション・マーケティング市場のマーケティング・マネージメントを担当しています。上記に当てはめると、セグメントの次元はB2B、フェーズの次元は戦略系を中心に、市場インサイトの下流部分と、プロモーション/アウェアネスの上流部分をカバーしている、ということになります。
そこで以降では、B2Bセグメントでの戦略系とプロモーション系/アウェアネス系の仕事について重点を置いて述べます。
まず戦略系については、私は「市場インサイトに基づくバリュー・プロポジション定義がマーケティング戦略構築の出発点である」、と考えています。バリュー・プロポジションについては、以前こちらに書きましたのでご参照下さい。
バリュー・プロポジションを定義するためには、市場やお客様ニーズ、競合を理解し、自分の強みと弱みを把握することが必要です。バリュー・プロポジションの定義に基づいて、対象セグメントやオファリングの中身、コミュニケーション・プラン、チャネル戦略等、その後のマーケティングの各フェーズで必要となる多くの要因が決まっていきます。
さらに、戦略系で極めて重要なことは、単にバリュー・プロポジションを定義するだけでなく、それを実際に構築し、戦略を実行することです。
企業内マーケティング・プロフェッショナルがコンサルタントがスキル要件としては重なる部分が多い一方、大きく異なる点は恐らくこのあたりではないでしょうか?
自社が提供する商品・サービスが、定義された対象セグメントでバリュー・プロポジションを発揮できるように、例えば、社内複数部門と交渉して製品・サービスを組み合わせてお客様に対する新しい価値を創造したり、他社とのアライアンスを通じてエコシステムを構築する、といったことも行っていきます。
プロモーション系/アウェアネス系は、上記で構築した戦略を受けて、市場に対して価値を訴求するフェーズです。戦略フェーズで定義されたバリュー・プロポジションを、ターゲットとなるセグメントに対して、いかに効果的・効率的に訴求するか、という点がポイントです。
メディアの選択も、バリュー・プロポジションの中身と時間軸の関係によって、目的が定義されることで、変わってきます。
例えば、いわゆる「イメージ訴求」、つまり新しいブランド(製品やサービスに留まらず、自社のバリュー・プロポジションそのものの場合もあります)の構築を狙ったアウェアネス獲得が目的の場合は、「広くあまねく」訴求することになるので、広告やTV CMを活用することが多くなります。このような場合も、メディアによるフォローアップ調査で効果把握を行っていきます。例えてみると、これは種を植えて苗を育てる段階です。
一方、ブランド構築とは別に、demand generationタイプのプロモーションもあります。例えてみると、これは稲を刈り取る段階です。
ソリューションの場合、セミナーやイベント等で獲得できた見込み客に対してコンタクトを継続し、セールスにlead情報を渡すことで実ビジネスに繋げていく、という流れが一般的で、こちらはこちらでカッチリしたプロセスがありますし、この業務を専業でなさっている会社もあります。
言うまでもなく、TV CMや広告でも、lead generation型のものがあります。最近の金額や電話番号/URLが明記されているPCの広告はほぼこのカテゴリーです。
さらに広報によるパブリシティ活動も重要です。会社によってはあまり宣伝を行わずにパブリシティ中心で活動をなさっているケースもあります。必ずしも自分達が思った通りのメッセージが伝わらないこともありますので、タイミング等も考慮し、他のマーケティング活動との相互補完関係を配慮する必要があります。
このようにして考えると、マーケティング活動では、戦略を出発点に全てがお互いに「価値(=バリュー)」という糸を通して密接に繋がっています。
ちなみに、米国マーケティング協会(AMA)によるマーケティングの定義も2004年8月に改定され、「価値」に重点を置いたものになっています。くわしくはこちらにあります。これも世の中の変化を受けてのことなのでしょう。
一方で、世の中は当初思った通りにはなかなか動かないものです。全く新しい市場を立ち上げる場合等は、市場インサイトそのものが極めて限定されるケースもあります。
このような場合は、取りあえず小さなところからスタートして早期に利益を確保してビジネスの継続性を担保し、走りながら考えて軌道修正していく、という創発的戦略もアリだと思います。