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日本オラクルのnewcrew98同窓会に思う。江島健太郎よ、いいから一度帰ってきなさい

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江島健太郎がインフォテリアU.S.の事業閉鎖に伴い退社する旨を先日知った。
アルファブロガーの1人として名をはせている彼と私は日本オラクル新卒の同窓生である。
インフォテリアの海外戦略を一手に背負い、渡米して事業展開にチャレンジしていた。

彼に対する私の評価は「手段と目的を取り違えがちな男」である。これは悪いことではない。
おそらく手段と目的を逆転したフロー状態の方が、彼のパフォーマンスは発揮されるのだろう。
本心、グリーンカードの取得と、自身の成長と、インフォテリアU.S.の事業成功と、どれが
手段でどれが目的だったかはわからないが、どうやらグリーンカードは取得できたとのこと。
ならば、ここで一度いろいろ考える機会をもったらどうだろう?
自分の過去と正対して見つめ直すのもまた勇気である。

このような考えに至っているのは江島の件とタイミングよくnewcrew98の同窓会が
偶然企画されていたためである。newcrew98というのは、日本オラクルの新卒98年入社
125名が登録されていたエイリアスであり、総称する呼び名でもある。

1998年といえば、日本オラクルがとてつもなく元気だった頃、IT業界全体もバブルが
はじける前のタイミングで勢いがあった。そんな中、当時の全社員数が1300名ほど
しかいなかった日本オラクルが125名を新卒として迎え入れている。実に10人に1人は
新入社員という状況だ。受け入れ側の苦労は並大抵ではなかっただろう。
採用、教育、処遇のフレームで考える人材開発テーマの定石にならい、当時の状況を
もう少し振り返ってみたい。

まず、採用。フツウに考えれば規格外として落としている変なヤツをあえて採用していると、
当時採用マネージャをしていた高橋敦子氏はよく話していた。おかげで個性豊かな面々の
ルツボを形成できたと思う。簡単そうで実践するのは意外と難しい。企業や担当社に
変なヤツらを引き寄せる魅力が必要だし、実験的に1~2名入れるくらいでは効果が
ないからである。変なヤツも朱に交わればなんとやらで、フツウになってしまうのが常。
ティッピングポイントを超えるほどに密度を高める思いっきりが必要だ。

次に教育。これも思い切った投資をしている。「人材を育てる」ことに拘っていた
佐野力氏の想いや当時人事本部長だった秋田氏のご尽力で、用賀の研修センターと
その後のOJTあわせて半年ほどかけて研修の期間をとっていただいた。4月に採用して
いながら前線配備は9月、昨今の厳しい情勢では考えにくい懐の深い対応である。

125名を学校のように5つの組に分けてクラス単位で研修を行ってゆくのだが、
江島や私が所属したのはひよこ組。かわいらしい名前にそぐわぬマニアレベル最高のクラス。
ひよこ組25名の中で学部卒は確か私含め4名だけ。他は主にコンピューターサイエンス系
院卒の即戦力クラスである。先生担当が「はーい、みなさん、今日はJavaの授業ですー」
といっている中、「ぬるいな」「なんかつくろっか」とメッセンジャーが飛び交い、
開発プロジェクトが発足。さまざまな成果物ができあがったが、Java製Webサーバーから
発展したServletコンテナ的な仕組みまでつくりあげたなど、エピソードがつきることはない。
全員がOracle Masterという最小公倍数もさることながら、マニアの中でもまれた原体験は大きい。

処遇、これも悪くない。当時の佐野力氏の方針で新卒を非常に大事にした。生意気な若者に対する
甘やかしと揶揄する声もなかったとはいえないが、好きなことをやらせてもらえる文化があった。
給与がずば抜けて高いということはなかったが、タナボタのキャピタルゲインは大きかった。
我々の世代が入社する頃には、日本オラクルの成長は安定軌道に入っており、株式公開を
見据えて入社を決意しているしたたかなメンバーも中にはいた。
おそらくその後起業をはたしている面々の中には、そのときのまとまった資金を一部に
当て込んでいる者もいるだろう。

採用も、教育も、処遇も恵まれる中、大事にされてきた面々も、徐々に自分の道を見つけて巣立って行くことになる。

江島が離脱したのが入社2年目。彼の場合はやめると言うより、戻るという表現がよいのだろう。
入社前からインフォテリアの平野氏とは親しかったと聞いている。そしてほぼ同じタイミングで、
DeNA事件が勃発する。入社2年目の仲間を中心に、同時に6名がBidders運営を行っていたDeNAに
移籍したのである。この出来事は人材流出的な取り扱われ方で日経ビジネスにも載ってしまった。
新卒を大事にしてきた佐野さんも大激怒である。かわいい新卒をとられて悔しいという面も
もちろんあるだろうが、一人前に育てる前に外に出すことを嫌っていたようだ。

「自分たちがやりたいことは社内ではできないので外に出る」という一大ムーブメントの
沈静には多大な苦労を強いられた。世間知らずの生意気社員が…という評価もあろうが、
その事実を真摯に受け止め、誠実な対応をとっていた当時の役員の皆様には頭が下がる。
この混乱の中、私は外に出ず社内ベンチャーを立ち上げるという道を選択した。

そんな経験を共にしてきたステキな仲間達のその後を少しばかり紹介しておく。

中古コミック全巻セット販売で話題の漫画全巻ドットコムをはじめとする物販サービスで
企業をはたした安藤拓郎

みんなを幸せにしたいというピュアな想いから挙式サポートサービスをはじめたところ
婚活ブームをとらえ、マハローの代表をしている石原鉄兵

江島と同時期に、孫泰蔵氏と学生時代からやっていたベンチャーに戻った福永茂行は、
現在マインドシェアという会社で執行役員様をやられている。

ひよこ組でアプリケーションサーバーを作っていた川道亮治は、その後Baykitという
プロジェクトを起こして独立した後、今ではジャズプレイヤーとして名をはせているらしい。

DeNA離脱組の中ではモバゲータウンの大成功で取締役にまでなっている守安を筆頭に、
まだ数名が在籍している。オラクルとDeNAの2度にわたる株式公開でビジネスの原資を
得た萩原知章は建美屋という不動産系のサービスで起業している。

他にも私を含む多くのメンバーが、他業種、同業に次のキャリアを見つけだしている。

そしてもちろん多くはまだ日本オラクルに残っている。
ネットイヤーでの貴重な経験をもって出戻り後OTNやらマーケ全般でがんばってるI氏、
社長室で全社の舵取りをみてきたT氏など、日本オラクルの屋台骨を支える中核となっている。
また、オラクル社内の全世界業務システム統合プロジェクトで活躍したM氏や
長らく会計系のERPモジュール開発で貢献してきたK氏などU.S.転籍組もチラホラ。

今思えばそうそうたるメンバーの中で楽しく過ごさせていただいたことに大いに感謝している。

近々、とはいえ7月末のことではあるが、newvrew98の同窓会が計画されている。
楽しかった98年当時の思い出話も、10年にわたるそれぞれの道で切り開いてきた
キャリアの苦労話も刺激的でオモシロイものになるに違いない。

技術はDEC、営業はIBMが主力の日本のIT業界40 over世代だが、
今後30代が台頭してゆくにあたり、この元オラクルという派閥がブランドポジションを
つくってゆくことになるだろう。

最後に繰り返し。エジケン、たまには日本に帰ってきなさいな。
同じ釜の飯メンツとの再会には、渡航費に見合う価値くらいはあるだろうに。

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