多言語・多通貨・多文化間の電子商取引(EC)を支える現場から

「海外ECシステム」の仮説と選択

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ずいぶん間が空きましてすみません。ちょっと昔の話をします

もともとWebデザインの受託制作をしていた私が、マルチリンガルカートのようなパッケージ化されたサービスを作ろうと考えたのには理由があります。娘の誕生です。

昔、私が経営していたWebデザインの会社は、数名スタッフもいましたが、私がメインの営業企画かつメインデザイナーでした。よって自分の労働可能な時間×生み出せる価値=会社の売上の上限と考えて大きく外れていませんでした。典型的な労働集約型事業…というか実質個人事業主です。

子どもが生まれて理解したことは、育児はものすごく大変(時間や集中力を割かれる)ということ。自分の両親のありがたみがよくわかりました。
子どもが生まれるまで10の時間を仕事に費やせるとしたら、乳幼児がいるとその半分の5くらいしか仕事に割けない。しかも私はいろいろ考えたがるタイプなので、集中力が下がるとクオリティも落ちる。
以前が時間:10×品質:5=50なら、赤ちゃんがいる状態では時間:5×品質:3=15くらい。
この状況で労働集約型の事業を続けることは困難だろうと察しました。

そこで、労働集約型ではないモデルへ移行しようとして、いくつか試行錯誤した中でたまたま私が出会った事業の種が「海外向けのECシステム」でした。おかげさまで事業としてはようやく芽を出しつつあるのですが、私の「零細のWebデザイン会社」が企業として破たんしたのは私が適切な育て方を知らなかったことと、その種を育てるための水や肥料(資本)の調達に失敗したからです。大変多くの方にご迷惑をおかけしました。マルチリンガルカートは2008年に私の会社からWIPジャパンに譲渡されて現在に至ります。この辺はFacebookの駄文などをご覧ください…

さて、「ECシステム」の提供を選択した際に、やらないと決めたことがいくつかあります。

そのうちのひとつがECモール。「やらないの?」という質問を時々受けるのですが、しません。理由は、お金がかかりすぎるからです。

少し説明します。
システムの場合、提供するサービスの根底には、目的(この場合海外向けEC)を実行するための「道具」としてのシステムがあり、それに付加価値が加わることで競争力やサービスの魅力が変わるという理解をしています。

なので、海外向けECシステムのスタートアップに必要なのはざっくりこんな感じでしょうか。
1.回線、サーバ
2.ECエンジンとしてのシステム開発・保守
3.翻訳
4.海外向けECの構築/運営に必要な知識。商習慣とか法制度とか為替とか。
5.サポート
6.国内向けマーケティング・営業

しかし、モールの場合は提供しているサービスは「売り場そのもの」です。つまり、場であるモールに集客ができて(売れて)ナンボです。売れなければ最初多少話題になったとしても、やがて店子はいなくなるでしょう。つまり、海外向けモール事業をやりたい場合は、上のシステム要件に加えて、海外からの集客手法を確立しなくてはなりません。

具体的には
7.店舗としてのモールの構築・運用
8.現地にまったく知名度がない自社モールの、海外における信用の獲得
9.店子によって様々なジャンルが含まれるモール内商品の海外向けマーケティング

が必要になります

しかし考えてみてください。
例えば対象を日本に置き換えたとして、知名度ゼロのサイトに対してオンラインで物を買ってくれるだけのマーケティング、しかも複数の企業が店子として入るならば、それぞれを満足させるだけの売上をもたらす送客を行う場合、いったいどれくらいの広告を投下すればよいでしょうか。また、実際に調べてみると法規制や商習慣上の制限も多く、認知や信用の獲得には相当な努力と工夫が必要です。もしもターゲットとなる海外現地で有力なモールなどと提携して売り場を交換することができれば、上記のような問題はかなり効果的に解消できるでしょうが…。

いずれにしろ海外向けECシステムと比較し、必要な予算の桁数がいくつか増えます。少なくとも私のような弱小ベンチャーが採る選択肢ではありませんでした。

もしもモールを選択しないならば、私は「8.現地にまったく知名度がない自社モールの、海外における信用の獲得」をしないでよくなります。
7と9はECサイト各店舗の構築・運用・マーケティングとなり、その国ごと、店舗が扱うジャンルごとに得意とする制作会社がある(あるいは自社でできてしまう企業もある)はずです。また、モールという漠然とした団体よりも、特定ジャンルやお店の個性を生かしやすいことから、現地への訴求がしやすくなるでしょう。

自分たちだけの力では難しくても、EC事業者の方々やより優秀な制作会社の方と協力し合うことができれば、私にとっては労働集約型ではないビジネスモデルでのサービスが提供でき、EC事業者にとっては海外の販路を獲得できる。また、協力先の制作会社にとっても新たなサービスの切り口を増やせるのではないか。

一応そんな仮説と選択がありサービスをやってきました。

残念ながら非労働集約モデルになったはずでも相変わらず忙しいですが、おかげさまで娘も元気に大きくなり、マルチリンガルカートはびっくりするくらい優秀なEC事業者の方々にご活用いただき、たくさんの協力会社に素敵なサービスを提供していただき、その陰では海外向けのWeb構築やマーケティングにチャレンジする制作会社さんが奮闘してくださっています。

マルチリンガルカートはこれらの様々な企業との関係性の上に成り立っています。あらゆる点でサービス本体を改善していくことはもちろんなのですが、EC事業者、協力会社、制作会社各社が協力し、活躍するための受け皿となり、「海外に売れる」場を醸成することも、重要な仕事ではないだろうかと考えています。

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