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多言語・多通貨・多文化間の電子商取引(EC)を支える現場から

海外向けECの翻訳における、4つの選択肢

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海外向けECを運営しようとすると、大きな課題の一つとなってくるのが言葉の問題です。
いろいろな場面で外国語でのコミュニケーションが必要になり、言葉の壁を何とかする必要が出てきます。ざっと思いつく限りだと次のような場面でこの問題が生じます。

A. 事前/運用時調査(調査設計、調査票作成、実査、集計・分析)
B. ECサイトの構築(コンテンツおよび商品情報の翻訳)
C. 顧客サポート(注文・各種問い合わせ対応、メールマガジンなど)
D. ECサイトの運用(コンテンツのアップデート、商品の追加/変更、キャンペーンなど)

私が関わっている海外向けネットショップASP「マルチリンガルカート」で、現時点で支援できるところは上記のうち一部分にすぎません。
具体的にはB. ECサイトの構築においてカート側で出力される文字情報が翻訳済みであること、また、各言語のサイトを作るためのひな型を提供していること。およびC.顧客サポートでは各プロセスでメールが発行されますが、そのいくつかはカート側で自動化できます。その自動化したメールに関して現地語のひな形を提供しています。

では、上記以外のコミュニケーションの問題はどうすればよいのか。
スタートアップのときは自分で何とか頑張る、というのもありだと思います。ただし、スタートアップではない場合組織として安定してこなす必要が出てきます。解決方法としては1.プロの翻訳を依頼、2.機械翻訳、3.現地語に対応できるスタッフを雇用/外注する、などの方法があります。ただ、いずれもいくつか問題があります


1.プロの翻訳を依頼

プロの翻訳を依頼する場合、メリットとしてはきちんとした翻訳会社に依頼すれば、迅速に適切な翻訳を得ることができます。たとえば私の勤務先の翻訳部門の仕事は、プロの翻訳者に依頼した訳文をその言語のネイティブがチェックし、各所で外国語に精通したコーディネーターによる文脈や用法、用語の調査が行われます。手前味噌ですが素晴らしい仕事をしていると思います。(私の所属は翻訳部門ではありませんが。)
デメリットはその費用です。翻訳は通常文字やword単価で料金が発生します。費用感のイメージは、たとえば日本語から英語へ翻訳する場合10数円~20円くらいが一般的なようです。では17円と仮定して200文字の商品説明文を英語に翻訳した場合、その費用は3,400円。
もしそのサイトに100点の商品があって、各商品が同程度のテキスト量を持つと仮定すると、商品テキストの翻訳費用は34万円。でも楽天やYahoo! Shoppingの人気店舗を拝見すると、上記の規模では済まない店舗のほうが多いように思います。しかも、この費用は構築時だけではなくA~Dのあらゆるプロセスで発生し続けます。これは、国内向けECでは生じない費用であり、海外向けECの収益性に大きな影響を与えます。


2.機械翻訳(自動翻訳)

1のデメリットをシステムの力で解決しようとしたのが機械翻訳です。Google翻訳をはじめとして、国内だとクロスランゲージ、高電社、アクセラテクノロジなどのベンダーがポータルサイトの翻訳機能などでおなじみです。
メリットは何と言っても、下限は無料で使用できること。
そして致命的なデメリットは、一度でも機械翻訳を使ったことがある方はお分かりのように、現在の技術では正確な翻訳は困難であることです。人間のコミュニケーション能力にはまだ遠く及びません。もちろん言葉の組み合わせによっては精度に差があることを書き添えておきます。
いずれにしても、この文章を書いている時点では、使う側が使途と範囲を意識しないと、店舗や商品の信頼にかかわる、あるいは重大事故につながる危険性があると認識しています。


3.現地語に対応できるスタッフを雇用/外注

1のデメリットであるコストに対して、プロの翻訳者に頼む範囲を少なくするという考え方があります。具体的な選択肢として現地語コールセンターを外注する、もしくは内部に対応できるスタッフを雇用するケースがあります。
メリットはある程度の規模がある場合、発生する外国語のコミュニケーション量から考えて、1だけを用いた場合より費用を抑えることができます。
デメリットは固定費化すること。1などとうまく組み合わせる必要があります。


さて、最近急激に成長しているのが、上記1~3全部を折衷したようなサービスです。これを4とします。「カジュアル人力翻訳」「自動翻訳マッチングサービス」などと呼ばれ、MyGengo、GMOスピード翻訳、QQ翻訳、Conyaqなどが比較的著名なように思います。

共通する特徴としては
・翻訳の依頼および納品はオンライン上で提供されるインターフェースを使用する
・翻訳は人間の翻訳者によって行われる(機械翻訳ではない)
・誰が翻訳するかのマッチングはシステムによって行われる(営業担当者やコーディネーターがいない)
・プロの翻訳より廉価で提供される(1文字数円~10数円)
・納品が早い(人手を介す部分が少ないため)

メリットとしては、1の特徴である人間のコミュニケーション力が生かされた訳を、1よりも費用を抑えて利用できます。また、固定費とはなりにくい形態です。
デメリットは1ほど正確ではありません。また、品質や機能は各ベンダー、および担当した翻訳者によってばらつきが大きいようです。

ただ、人間が得意とするところは人の手で、システムが得意とする事務的な部分はシステムに、うまく折衷した点が非常に興味深いと思います。これからどのように成長していくのか関心があります。

日本は世界では珍しく、ひとつの国で主要な言語が1つしかない国です。
そのため言語が違う地域や消費者へ販売することへのハードルが、心理的にも実務的にも高い気がします。ただ、解決策は間違いなくあり、日々改善されています。より多くの企業が、言葉の壁をあまり気にせずに世界へチャレンジできる環境ができるといいなぁ、と考えています。

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