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多言語・多通貨・多文化間の電子商取引(EC)を支える現場から

海外向けECでSEMがうまくいかない2つの理由

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海外向けECで、ほぼどの店舗も課題になるのが、いかにして「海外から」お客様を集めてくるかという点です。いわゆる4マス広告は現地法人がないと契約できないケースが多いため、海外へ法人を作らずに日本から物販をしようとした場合には選択肢が限られます。比較的少額でも利用でき、日本企業でも利用可能な海外向けのマーケティング手段は、Google等の検索エンジン連動型広告…となるショップは多いようです。

しかし、この「検索エンジンマーケティング(以下SEM)」に対して、「日本から海外に売る」という構図を取る際には、特定のケースを除いてあまり有効ではないのでは、と感じています。理由は大きく2つで詳細は次の通りです。

まず、1.検索エンジンで何かを探すには、対象物の概念がすでに検索する人の頭の中になくてはいけません。

わざわざ海外から取り寄せてでも買いたい商品、というのは現地の概念でまだ一般的ではない(だからこそ現地で製造や流通がされていない)商品であることが多いのです。(もちろん例外もあります。後述します。)

なぜかというと現地で手に入れられるのであれば、現地で購入する方が消費者にとってはよっぽど負担が低減されます。特に物流に関しては、国をまたぐと途端にコストが膨らみます。たとえば日本から中国に、EMS(国際スピード郵便、一般的に使われている海外向け小口輸送手段)で 1kg(ジーンズ1本+梱包材くらい)の荷物を送った場合、1,800円です。日本円で見てもちょっと高いと感じますが、日本よりも物価の安い国々にとってはとんでもない金額に映ることもあります。たとえば、中国国内で同じ物品を中国国内の郵便で配送した場合、都市部なら24元(約325円)です。日本から物を取り寄せる送料は「通常支払う郵便料金の5倍」と映ります。また、送料とは別に関税等の各種租税も考慮しなくてはいけません。

他にもトラブルがあったときに外国語で交渉しないといけないのか、自分の文化的常識は通じるのか、為替が変動してさらに請求額が上がったりするのでは…などの不安もあるでしょう。

ですので、既に国内に自分の要望を満たす商品があるならば、そもそも海外の商品を積極的に探そうとはしないでしょう。また、ある切り口で国内外の店舗の商品を等しく並べ、それらを比較する状況になった場合、自国内と他国の店舗のどちらから買うかといえば、多少の差であれば現地国内の店舗が選択されやすいのは当然のことです。

次に、2.相手の土俵では比較検討に負けます。

あまり世の中に知られていない商品を売るためのSEMの手法として、何らかのカテゴリにその商品を紐づけて(たとえば浴衣なら「日本 女性衣類」と検索すると結果の一つとして出す、など。)現地からの認知を得るという方法も確かにあります。しかし、SEMを行う価値があるほど既に現地に広く知られている“カテゴリ”とは、その概念に含まれる商品も既にある…という場合が多いのです。すると、日本から海外に商品を売ろうという企業がこの戦法を採った場合、検索結果は当然現地企業と混ざって表示されてしまうわけで、前述のように条件面で不利な日本企業のショップは、比較検討の一環として閲覧される機会は増加しても、なかなか購入には結びつかないはずです。

上記の2つのような理由から、日本から海外にECを行う際に集客手段としてSEMを選択するのであれば、店舗側が次のいずれかに該当しないと、割に合わなくなるように感じています。

1)現地企業の店舗と比較されても商品の知名度、価格、配送時間・料金、顧客対応等の面で劣らない(勝てる)体制がある
2)強いブランド力のある商品が既に現地で認知されており、現地を含む競合企業では取扱が困難である
3)物流を伴わない商品を取り扱っている
4)上記以外の要素で、現地店舗と比較されても勝ち抜けるだけの仕組みが構築できる

1)は、王道ですが実現しようとすると事業の現地化をしなくてはいけません。これにはある程度まとまった投資が必要ですので、中小企業が(いえ、大企業であっても)いきなりこの戦法をとるのはリスクが高いように思います。

2)の場合は特殊で、たとえば国際的に有名な俳優やアーティストの公式ショップ等がこれに当たります。しかし、2)に該当するショップはわざわざSEMをしなくてもお客はやってくるため、店舗担当者からそもそもSEMってなんですか?と聞かれたりします。彼らの一番の悩みは津波のようなトラフィックと受注をいかに捌くか…だったりします。

3)に関しては2つあり、たとえばソフトウェアや音楽等のデジタルコンテンツが1つ目に当たります。商品もデータですので物流コストの考慮がいりません。ターゲットとしている国や地域にある程度快適な回線環境が環境があり、現地競合よりも魅力のある商品が提供できるならば、SEMで露出を増やすことがコンバージョンにつながりやすいと感じています。
2つ目はホテルの宿泊予約や、イベントのe-チケットのような商材です。購入したサービスは後日お客が自ら受けに日本へ来てくれるので、そもそも現地企業が競合になりません。

4)は可能性としてあると思うのですが、事例を知りません…。どなたかご存知でしたらぜひ御教示下さい。

では上記に該当しないけれど、今後現地法人を持たずに海外へのECを試みたいという店舗はどうすればいいのでしょうか。

私はわざわざ日本から取り寄せてでも購入される商品とは、現地の人にとってそれだけのことをするだけの特別な価値がある商品であるはずだと考えています。もしかすると、前述のような現地の上位概念を探してその下に紐づける集客の仕方は、もともとの価値を見えにくくし、本来競合ではない競合を作り出してしまうのかもしれません。

また、冒頭に書いた通り、検索エンジンで何かを探すには、対象物の概念がすでに検索する人の頭の中になくてはいけません。そもそも検索エンジンとは、検索する当人にとって「そんな商品やサービスの必要性を考えたこともない」というような商品は提示しないように設計されています(少なくともこのテキストを書いている時点では)。

で、あるならば最初はその概念の種を蒔くようなマーケティング手法を選ぶべきではないでしょうか。
このテーマについては改めて投稿します。

(※この記事は過去にはてなへ投稿した記事を加筆修正したものです)

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